高校生組がSAO入りする話【02】
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 50層のとある建物の前に二人は立っていた。
この建物の中にアスナの知り合いである商人が居るらしい。 アスナ曰く、怖そうな外見だけど凄く優しい人なのだそうだ。 名前はエギル、というらしい。
「お、おじゃまします……」
 遠慮がちに開けてある扉を潜って行けば、其処に居たのは偉くガタイがいい強面な男性だった。 若干怯んでいるとアスナは微笑みながら、大丈夫だと告げる。
「おう、アスナ。 来たか!」
 喋りだすとエギルさんはとても気さくで、優しげな雰囲気にアヤノは安心したように微笑んだ。
「こんにちは、この子が私の友達のアヤノ。」
「あ、アヤノです……」
「俺はエギル、よろしくなアヤノ。 んで、頼みたいことって?」
 エギルさんの案内でお店スペースの二階にある部屋に通された私とアスナは、一息ついたところでアヤノは重い口を開いた。
「人を、探しているんです。」
「……プレイヤーを、か?」
 アヤノの瞳を真っ直ぐ見てエギルは呟いた。 真剣に受け止めてくれているのが肌で分かって、アヤノはほっと一息つく。
「はい……」
「このゲームの中に居るのは間違いないのか?」
「それは間違いないんです。」
 其のあまりにも自身に満ちた顔にエギルは驚きながら、話を続けた。
「フレンド登録は……してないみたいだな。 プレイヤー名は?」
「分からないんです。 本名なら分かるんですけど…」
 彼が本名でSAOをやっているとは限らないし、此処で現実世界のことを話すのはマナー違反とされている。 だからこそ今までアヤノはシンタローを見つけられなかったのだ。
「……本名でやっている線は無いのか?」
「どうでしょう……彼、頭がイイですし、ゲームも得意な方ですからそんな初歩的な間違いをするとは思えません……私は本名ですけど、他に名前が思い当たらなかったからですし……」
 初歩的な間違いの部分にアスナは反応を示したが、それをスルーしながらエギルは考える。
「一応だが聴いていいか? その探している相手の”本名”を。 ちゃんと秘密は守るし、聴いているのは俺とアスナ位だから。」
 アヤノは少しの間考え、そして口を開く。 この人達ならきっと、そんな期待を込めて。
「彼の名前は、シンタローと言います……」
 その私の言葉にエギルさんは固まった。 不思議に思ったアスナは心配そうにエギルの顔を覗き込む。
「エギルさん?」
「……なぁ、アヤノ。 そいつもしかして前髪が長めの黒髪で、赤が好きで、頭が良くて、コミュ障入っている奴じゃないか?」
「はい……知っているんですか?!」
 エギルの口ぶりからすれば恐らくフレンドあたりに当てがあるのかもしれない。 そんな一縷の望みを掛けてアヤノは身を乗り出した。
「あ、あぁ。 ―俺のフレンドに”Shintaro”というプレイヤーが居るんだ。 つっても、あまり話したことはないが。」
「…どういうことですか?」
「アイツ、たまに俺の店にアイテム売りに来るんだよ。 その時何かと都合がいいからって、フレンド登録したんだ。 俺から誘ったから半ば無理やりだな。 あっちはしたがらなかったし。 顔もあんまり見たことねーな。 いつもフードで顔隠してたし、見たのは1・2回くらいか。」
 話しによればシンタローはいつもフードで顔を隠し、装備は楯無しの片手用直剣。 ところどころに赤が入った黒基調の装備らしい。
 マップで位置を確認してもらえば、やはり彼は最前線の迷宮区に居るのだそうだ。
 其の話を聞いたアヤノはガタッと立ち上がり、エギルの店を出ていこうとする。
「ちょ、ちょっと待ってアヤノ。 落ち着いて!」
「落ち着いてなんか居られないよ! 早くシンタローのところへ行かないと!」
「まぁ待てよアヤノ。 アスナ、キリトにメッセージ飛ばしてくれ。 俺はクラインとあと、エネとコノハにメッセージ飛ばす。」
「分かった。 此処に来るように言えばいいよね?」
「あぁ。」
 二人はウインドウを素早く操作し、メッセージを飛ばしていく。 最前線の迷宮区に行くだけなのにこんなに人数居るのだろうか。
「アヤノは知らないかもしれないけど、最近ね、あの迷宮区内でラフコフのメンバーが目撃されているの。 だから二人で行くよりも人数が多いほうが安心でしょ?」
「そうだけど……」
 ラフコフは話題の殺人ギルドの名前だ。 彼らによるPKは現在SAO内で大きな問題となっていて、いつか攻略組で討伐しようという話をちらほら聞いたことがあった。 アヤノ自身、そのギルドが居ることは知っていたし、其の危険性も十分に理解できる。
「エギルさん、キリトくんは大丈夫みたいです。 今から来るって。」
「そうか、クラインもコノハもエネも大丈夫みたいだ。 ――アヤノ、俺達も一緒に言ってシンタローを探す。 其のほうが早いだろ?」
「あ、ありがとうございます……」
 ふと、アヤノは先ほどエギルが口にしていた名前を思い出す。
「って、あれ? エネ? コノハ?」
「知り合いか?」
「もしかしたら、先輩……かも……」
 アヤノにはエギルのつぶやいた二つの名前に聞き覚えが在った。 それは、私とシンタローととても仲良くさせてもらっていた先輩のネット上で使う名前だ。 しかし、あの二人がSAO内に居るとは知らなかった。
 たしかにあの二人はゲームが好きだけれど……
「そういやあの二人も探しているプレイヤーが居るって言っていたな……」
「え?」
 エギルが思い出したようにそう告げればアヤノは分かりやすいほどに反応した。
「アヤノのこと、探しているんじゃない?」
「……そうかもしれないですね。」
 私が必死になってシンタローを探していたようにきっとあの二人も探していたのかもしれない。 そう考えると途端に申し訳ない気持ちになった。
「同じ攻略組なのに今まで合わなかったのが不思議だな……」
「私攻略組って言っても、私はボスまでのマッピングや情報収集がメインだからボス攻略は出ないことのほうが多いですし……」
 アヤノは攻略組だが、ボス攻略は殆ど出ない。 彼女が受け持つのは、ボスまでのマッピングをしたりボスの情報を突き止めたりする役だからだ。 対して、エネとコノハはボス攻略をメインに活動しているため会わなかったのだろう。
 そんな時だ、お店の方から声が響いたのは。
「エギルー? きたわよー」
 その声は紛れも無く先輩のもので、やっぱりあの二人だったのかと感極まったアヤノはガタッと立ち上がる。 エギルは店の奥へと二人を案内して、そして。
「えっ……」
 見事に先輩二人の言葉が重なった。
「嘘でしょ……アヤノ、なの? もうっ探したんだからね!」
「ご、ごめんなさい……」
 二人に心配をかけさせたとアヤノは素直に謝る。 そんなアヤノの姿を見てホッとしたのかコノハがエギルに問いかけた。
「あれ、エギルさんアヤノちゃんと知り合いだったんですか?」
「いや。 俺じゃなくてアスナの知り合いで、俺は今日初めて会ったんだ。」
「ごめんね、アヤノが二人の知り合いだとは思わなくて……」
「謝ることじゃないよ。 知らないのは当然のことだし…… まぁ、何はともあれ、アヤノちゃんと再会出来てよかった。」
「あれ、シンタローは一緒じゃないの?」
 ふとあたりを見回してエネはつぶやく。 どうやらアヤノと一緒にシンタローが居ると思っていたみたいだ。 そのエネの問いかけにアヤノはしゅんとした様子で首を横に振る。 其の様子に首を傾げながら、エネとコノハは部屋にあった椅子に腰掛けた。
 それから3分ほど経ち、またエギルのお店に訪問客が現れる。
「よう、キリト・クライン。 待ってたぜ。」
「珍しいな、お前がアスナを通じて俺を呼びたすなんて……なんかあったのか?」
「なんか急用があったから、呼び出したんだろ?」
「まぁまぁ、其のことについては奥で話すから着いてきてくれ。」
 そのエギルの言葉にキリトとクラインは、顔を見合わせ、首を傾げながら黙ってついていく。 するとそこには攻略組が勢揃いしていた。
「あれ、キリトとクラインも呼んだの?」
 やってきたメンツにびっくりしながらエネは軽く二人と挨拶を交わした。
「こんなメンツ揃えて……どうしたんだ一体……」
 部屋の中に居たメンバーの顔を見渡してキリトが吃驚しながら呟く。
「んじゃ、メンバーが揃ったところで、まずはアヤノの自己紹介からだな。 エネとコノハやアスナは知っているが他は初対面だろ。」
「そ、そうですね。 えっと、アヤノです。 一応攻略組なんですけど、私は事前のマッピングやボスの情報収集がメインなのであまりボス戦には出たことがないんです……よろしくお願いします。」
 アヤノの自己紹介が済み、エギルは本題に入った。
「今日呼び出したのはアヤノの探している人を一緒に探しに行ってほしいからだ。」
「・‥…探している人?」
 部屋から入ってきたドアの前でキリトは呟いた。
「あぁ。 プレイヤー名、シンタロー。 アヤノの話によれば、あの始まりの日に待ち合わせをしていたそうなんだが、何時になっても現れなくてそれ以降行方が分かっていないんだと。」
「ゲーム内には居るのか? もしかしたらゲーム内に居ないってことも……」
 キリトの疑問に、エギルは間を開けずに答えた。
「いや、それはない。 俺のフレンドにそのシンタローがいるからな。」
「だったらなんで俺たちを呼んだんだ?」
 キリトは首を傾げるようにエギルに問いかけ、そしてアスナは陰ながらその仕草にドキッとしたりして。
「今アイツが居る場所が最前線の迷宮区だからな。」
「――なるほどな。」
 最前線の迷宮区で度々ラフコフのメンバーが目撃されているのをキリト自身知っているのだろう、納得したような顔で座る。 そしてふ、ととある疑問点にぶち当たった。
 何故ラフコフが最前線の迷宮区に居るのだろう、と。 目撃されるようになったのは、極々最近のことであり彼らが何を目的とし最前線の迷宮区に居るのかはキリトの知る所ではないが、もしかして、狙いは。
「じゃあ早めに行ったほうがいい。 ラフコフのメンバーの狙いがもしかしたら……なんてこともあるかも知れないだろ?」
 ガタッと乱暴な音を立ててアヤノは椅子肩立ち上がる。
 キリトの言っていた事が当たっていないでほしいという願いと共に、立てかけてあった自分の武器を握り、瞳を閉じて声にならない声で彼の名前を呼んだ。
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