高校生組がSAO入りする話【01】
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 最前線の転移門、慣れた様子でスタスタと迷宮区へと歩いて行く。
「今日こそシンタローを見つけなくっちゃ。」
 赤いマフラーがトレードマークな”アヤノ”は真剣な顔つきでマップを見つめていた。 目的はとあるプレイヤーを探し出すことで、今日はその為だけに迷宮区へとやってきたのだ。
 SAO―ソードアート・オンライン―は今現在アヤノが囚われているゲームの名称。 そう、あの日が来るまではこのゲームはただのゲームだった。
 でも、あの始まりの日から私達はこのソードアート・オンラインはただのゲームではなくデスゲーム、そうこの世界で死ねば現実世界でも死ぬという紛れも無いデスゲームと化してしまったのだ。
「――ちょっとアヤノ! また独りで行くつもり!?」
 迷宮区に行こうと歩き出した矢先、後ろから良く知った声で呼び止められて振り返る。
「あれ、アスナ? どうしたの?」
「どうしたのじゃない! まったく、目を離すとこうなんだから!」
「大丈夫だよ、一人なんて慣れているし。」
「慣れが一番危険なのよ! 大体、ソロだともしもの事態に対処出来ない場合があるでしょう!」
「もう心配症だなぁ……」
 腰あたりまで伸びる長い栗色の髪、SAOでも有数の美少女である彼女の名前はアスナ。
 私の友達で、血盟騎士団の副団長で、彼女は攻略組の中でも”閃光”と呼ばれるほどの剣の使い手である。
「はぁ……全くアヤノが死んだら私もリズも悲しむのよ?」
「死ぬつもりはないよ。 第一私、一度死んでいるもの。」
「……。」
 アヤノが一度死んでいるというのは、アスナも話には聞いていた。
 俄に信じられないような、そんなファンタジーな話であったがアヤノの顔は真剣だったからアスナは信じることにしたのだ。
「私もついていくわ。 アヤノだけじゃ心配だもの。」
「え? でもギルドは?」
「今日はオフにしてもらったの。 こんなことだろうと思ってね。」
「ならいいけど……」
 そんな会話をしつつ、アヤノとアスナは迷宮区へと足を踏み入れた。 警戒を怠らずに、歩きながらアスナはずっと気になっていたことを聴いてみる。
「ねぇ、なんでアヤノはこうしていつも一人で迷宮区へ潜ろうとしているのよ。」
「人を、探しているの。」
 淡々とアヤノは語る。 優しい、優しいあの子のことを、今でも覚えているから。
「でもなんで迷宮区? 始まりの街とかいろいろあるじゃない。」
「始まりの街は絶対に居ないってわかっているからね。」
「……どういうことよ。」
「きっとね、このゲームに私が囚われてしまったのは自分のせいだって思っている。 だから私をここから早く開放するために彼なら前へと進むはず。」
「彼、って事は男なの?」
「うん。 こうなる前、そうだなぁ、私が一度死んでいた時のこと話したよね?」
 一人で解決できると思い込んで、でも結局何も解決できなかった事。 見ているだけしか出来なかった空白の二年間、そして。
「助けに来てくれたの、彼が。 ――ねぇ、アスナ。 私を助けに来るってどういうことだか分かる?」
「……まさか、」
「其のまさか。 私が居たあの世界に入るには死ななければならない。 ――だからね、私のことを助けに来た彼も一度死んでいるんだよ。」
 頸動脈を銃で撃たれて――いや違う。 彼は助けたんだ。 自殺しようとしているあの人を、救うために。
「すごい話だね……」
「密度の濃い2年間だったよ。 そんな経験もあって私はまたこの世界にいることが出来るんだ。 その後も結構色々あってさ、彼と家族の蟠りが無くなって妹とも母親ともいい関係になり始めた……其の矢先に此れ。 そんな忙しない日々の中で気を休める場所をって彼が誘ってくれたのがこのSAOだったの。 ……だからこそ、絶対に彼は自分のせいだって思っているはずよ。 そんな時、アスナならどうする?」
「……なるほどね、だから最前線の迷宮区ってわけ。」
「絶対にいるはずなの。 もう、彼を独りにするわけにはいかないから。」
 そう、彼の唯一の願いを私は覚えているから、だから私は戦って、戦ってキミの元へと一直線に。 今度こそ、私は君のとなりに居たいから。
「じゃあさ、二人で探すよりも数が多いほうがいいと思わない? それに、私の知り合いに商人をやっている人がいるからもしかしたらなにか知っているかも。」
「なんで商人?」
「だって、どんなプレイヤーだって無限にアイテムは持てないわ。 だから売ったりしてお金を稼いだりする。 そういう時、私達が売るのは商人クラスのプレイヤー達でしょう? もしかしたらアヤノの探している人と知り合いかもしれないじゃない。」
「……そっか、そうだよね。 やっぱり一人でってのはもう限界かなぁって思っていたんだよ。 アインクラッドは広いからね……。」
 限界を感じては居た。 このまま一人で探し続けてもきっと、クリアまで見つけられないだろうなと諦めていた部分もあった。 だからこそこのアスナの言葉は少しだけアヤノに勇気を持たせてくれたのだ。
 もしかしたら、と――
「そうと決まったら今から行きましょう! ちょっと待ってね、商人プレイヤーの知り合いにメッセージ送るから!」
 アスナは素早くウインドウを操作してメッセージを複数の相手に送った。 行動の早さに脱帽しつつ、我に返ったアヤノは慌てて声を上げる。
「えっ今から?!」
「うん!」
「急ぎすぎ!」
「ほらほら、行くよ〜」
 善は急げと高らかに宣言したアスナに手を引かれ、アヤノとアスナは50層へと向かっていった。
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