審神者如月伸太郎の話【05】
+bookmark
 次の日の朝、伸太郎は少し大きめのカバンを斜めがけして本丸の玄関に立つ。 見送りに来た刀剣男士たちに苦笑しつつ、カバンのファスナーをちょっと開けて中にいるこんのすけに話しかけた。
「こんのすけ、大丈夫か?」
「はいっ! 僕狭いところが大好きなので丁度いいくらいですよ!」
 カバンの中から聞こえた声に、山姥切国広がちらっと中身を見るとそこには少々縮んだこんのすけが見上げて笑っていた。
「……縮んでないか?」
「このカバンのサイズに合わせて少し体の大きさを調整したんです!」
「そんなことが出来るのか……。」
「えっへん!」
 国広の言葉に、ドヤ顔でいばるこんのすけに軽いデコピンを食らわせた国広は伸太郎の顔を見つめた。
「主、楽しんでくれ。 何かあったらすぐに俺たちを呼ぶこと、いいな?」
「大丈夫だって、そこら辺は心得てる。 ありがとうな、国広。」
「あるじさま、いってらっしゃい!」
 国広を始めとするみんなに見送られて、伸太郎は現代へと向かった。
 待ち合わせ場所に行けば、はっと気がついて向こうが手を降ってくる。
「伸太郎くーん!」
「こっちこっち!」
「わー、シンタロー久しぶり!」
 待っていたのは、九ノ瀬遥・榎本貴音・楯山文乃の3人。 そう、俺の学校行っていたときからのの友人だ。
 駆け寄れば、みんなは嬉しそうに笑う。 変わらない笑みに、伸太郎も笑う。
「……アンタ、なんで変装してんの?」
 貴音が呆れ気味にそういえば、遥も文乃もそれに頷いた。
「今の仕事上、あまり目立つなって言われてなんかこんなことに……」
「へぇ……色々とあんのね。」
「家でつぼみたちがお弁当作ってるよ。 早くいこ、シンタロー!」
「ああ、そうだな。」
 今日はみんなで遊園地に行く約束をしていた。 前にみんなで行った思い出のある遊園地で、楽しく一日過ごす予定。 いきなり帰るって言ったにもかかわらず、こんな事になってしまった。
「アヤノ。」
 アジトへと向かいあるき始めた矢先、伸太郎はアヤノを呼び止めた。 振り返ったアヤノに無言で手を差し出すと、アヤノは嬉しそうに手を乗せると、また歩き始めた。

アジトにつくと、キドとマリーとセトが仲良くキッチンでお弁当を用意していた。 桃は手伝おうか?なんて聞いて華麗に拒否されている。 そんな光景に伸太郎はふっと安心したように笑った。
「あ、シンタローさん!お久しぶりっす!」
「お兄ちゃんおかえり!元気そうでよかった。」
「シンタローひさしぶり!」
「元気そうじゃん、ひさしぶり〜」
「シンタローか、久しぶりだな。」
 アジトに入って、セト、桃、マリー、カノ、キドの声が至るところから聞こえてああ帰ってきたんだなと安心してしまった伸太郎にふっと安心したようにアヤノも笑う。
「さて、みんなっ準備はおっけー?」
 遥がみんなにいうと、桃が張り切って声をあげた。
「もっちろん!」
「よし、じゃあみんなで遊園地、行こう!」
 その遥の言葉にみんなは「おーっ!」とノリノリで拳を突き上げて、用意しておいたカバンを持ちアジトからでていく。
「みんな元気だな。」
「久々にみんな揃ったんだもん、当たり前でしょ。 行こう、シンタロー。」
「ああ!」
 そうしてみんなと過ごす遊園地は楽しくて、ガラにもなくはしゃいでしまった自分が居た。 そんなみんなを守るためにも、今の仕事を頑張ろうと思えるくらいには。
 気がつけばもうあたりは夕暮れとなっていた。 そろそろ帰ろうかなんて遥が言うと、みんなはそれに頷いている。 さすがに疲れたようだ。
「ねぇ、シンタロー。」
 遊園地を出てみんなで歩いている最中、隣を歩くアヤノがそっと声を上げた。
「どうしたんだ?」
「前みたいに頻繁に会えなくなってちょっとさみしいな……」
「今度みんなを俺が今住んでいるところに招待するよ。」
「え、本当?! 楽しみだなー。」
「生活がもっと安定したらな。」
「うんっ楽しみにしてるね!」
 そんなことを話しながら歩く帰り道、ふと嫌な感じがして立ち止まった伸太郎にアヤノは首を傾げながらどうしたのと尋ねる。 それに曖昧に答えてあたりをじっと見回せばそれはじっとこちらの様子を伺うように立っていた。
「……」
 黒い靄を纏う明らかに人間ではないシルエットのそれに、はっとした伸太郎は掴んだままのアヤノの手もそのままに走り出した。
「お前ら、ちょっと緊急事態だから走るぞ!俺についてこい!」
 そう叫んで、走り出す。アヤノはびっくりしたような声を出しながらもちゃんと伸太郎についていっているようだ。 他の奴等もいきなり叫んで走り出した伸太郎に疑問を持ちながらもちゃんとついてきている。
 伸太郎は走りながらバックのファスナーを開けた。
「こんのすけ、聞こえるか?」
「はいっ!」
「この気配は時間遡行軍だ。 政府に現世における刀剣男士の抜刀許可をもらっておけ!」
「了解しました! 主様、半径1キロに渡って隔離結界が張られています。 主様のご友人たちは主に近すぎて結界内に取り残されてしまったようです。」
「なるほどな…… 回りに他に取り残された人はいるか?」
「調べた限りだと居ません、今この結界内に居るのは主様のご友人だけです!」
「了解。」
 少し開けた場所まで来た伸太郎は立ち止まる。 乱れた息を整えながら、小声でこんのすけに告げる。
「こんのすけ、出てきていいぞ。」
「はい!」
 そう言うと、こんのすけはバックの中から顔を出す。 びっくりした様子のみんなを尻目に、こんのすけは伸太郎の肩に乗っかる。
「くるな……」
「はい。 主様、政府からの了承取れました。 本丸へも連絡し、山姥切国広様と今剣様が出陣準備をしています。」
「出陣準備完了でき次第報告頼む。 それと、あの人に助人要請。 今こっちに向かってきているのは打刀と短刀が一振りずつだが、それだけとは思えない。」
「了解しました!」
 そう言うと、伸太郎の肩を降りて走っていく。 見送った伸太郎はみんなの方を振り向いた。
「すまん、詳しく事情を説明している暇がねぇからとりあえず俺の後ろにいてくれ。 ……敵が、来る。」
「……敵って……なに? 一体何が起こってるの? シンタロー」
 不安そうに見つめてくるアヤノに声をかけようとするが、気配が直ぐ側まで迫っていることに気がついて表情を引き締めてアヤノを優しく後ろへと移動させる。
「説明したいのは山々だが、もう来ちまうから話はあとな。 お前らは俺が守ってみせるから、俺の後ろにいてくれ。」
 アヤノは頷いて少し後ろに下がる。 するとカノが伸太郎の瞳をじっと見つめる。
「……敵ってさっきちらっとみた、あの黒い靄の影のこと?」
「ああ、カノは見たのか。」
「あれは誰を狙ってるの? 僕たち? それとも……君?」
「……俺だな。」
「それで、君はそれをなんとか出来るの?」
「ああ。」
「……それ自己犠牲とかそういうのじゃないよね? 嫌だよ?」
「分かってる。 大丈夫さ。」
「信じるからね、シンタローくん。」
「ありがとうな、カノ。」
 じっと見つめて着たカノはそう言うとにっと笑う。 そんな彼の笑みに答えて、伸太郎は敵が来る方向を見る。
「主様!」
 離れた場所で色々としていたこんのすけが終わり、伸太郎の元へと駆け寄ってくると見上げた。
「山姥切国広様、今剣様共に出陣準備完了です。」
「ありがとうな、こんのすけ。 こんのすけは引き続きあの2体以外の敵が居ないか探ってみてくれ。」
「了解です。 主様お気をつけて……」
 心配そうにしながらこんのすけは走っていく。 それを確認する間も無く、向かってくる敵を見据えて手を合わせた。
 こういう形での遠隔顕現はぶっつけ本番だが、大丈夫だろうと心のなかで唱えつつ呼び寄せる二振りの刀のことを思い浮かべて、言葉には出さずに祝詞を唱える。
次の瞬間、敵の短刀が伸太郎めがけて恐ろしいスピードで迫る。 後ろで仲間が伸太郎を呼ぶ声が聞こえるがそれには答えず、伸太郎は集中する。 やがて敵の短刀は伸太郎の右肩を刃で抉る。
「……っ!」
 痛みに表情を歪めながらも、伸太郎の集中は切れない。 やがて淡い光を放つ力が最大限溜まったことを確認した伸太郎は声を上げた。
「来いっ、山姥切国広! 今剣!」
 その名前を呼んだその瞬間、伸太郎は合わせていた手をばっと開く。 天から光が降り注ぐみたいに、地面に突き刺さったその光放つものは桜吹雪の中立ち上がる。
「時間遡行軍を殲滅しろっ!」
 シンプルでわかりやすくそう叫べば、その影は敵の見える方へと走り出しながら答えた。
「了解っ!」
「わかりましたっ!」
 刃を抜いて二振は敵へと向かっていった。 それを確認した伸太郎は、ふうっと息を吐きながら切られた箇所を手で抑えた。 ぽたりとたれた血など構わずに戦闘の行方を見守る。
 すると心配で伸太郎の元へとよってきたアヤノが後ろから声を掛けた。
「シンタローっ、大丈夫!?」
「えっ、ああ……アヤノか……大丈夫だ。 もう少しで終わるだろうから待っててくれないか?」
心配そうなアヤノに笑いかけて告げる伸太郎に心配そうな表情のまま、口を開いた。
「……全部終わったら手当てさせてね。」
「ああ、頼んだ。 多分、もうすぐ終わるから。」
 戦っている国広と今剣を見守りながら言う伸太郎に静かに頷いたアヤノは邪魔にならないようにと下がる。
 国広と今剣の戦闘を見守る伸太郎は、ふっと安心したように笑った。 
「俺は偽物なんかじゃないっ!」
 そう言って敵の打刀にトドメを刺した国広に続いて、今剣が起用にぴょんぴょん羽ならが敵の短刀を捕捉した。 にやっと笑った今剣が敵の短刀の瞳に写って最後。
「あはははっ!うえですよーっ!」
 あたりに斬撃音を響き渡らせて、敵は消えていく。 それを見届けた国広と今剣はばっと伸太郎の方へと振り向いて走り出す。
「主っ、大丈夫か!?」
「あるじさまっ!」
 心配そうに駆け寄ってきた二振は、伸太郎の左腕を伝う血を見てぎょっとしてあわわと慌ててあたりを見回す。
 そんな姿をみたアヤノが駆け寄って、伸太郎に声をかけるとどこから聞きつけたのか口に救急箱を加えたこんのすけが泣きそうになりながら走ってくる。
「主様の手当て、お願いしますっ……!」
 再び喋ったこんのすけにびっくりしつつ頷いたアヤノは伸太郎をベンチまで促して行く。
「主様、先輩審神者様がご到着されて残党狩りを行っています。 残りの処理は先輩審神者様が引き継いてくださるみたいで、主様が許可くだされば私が収集した情報を先輩審神者様にお渡しして、今日は帰ってくださっていいそうです!」
 そのこんのすけの言葉を聞いた伸太郎はキレイに二度見をしながら驚いていた。
「えっ、マジか……」
「マジです、主様。」
「そうか。 とりあえず、情報引き渡しの件は許可をする。 先輩審神者殿にしっかりと渡しておいてくれ。 あと、今日の件のお礼は必ず後日伺いますとも言っておいてくれ。」
「了解しました!」
 こんのすけは少し離れた場所で作業を始めた。 はっとした様子で伸太郎が声を上げる。
「国広、今剣。」
 その言葉にすぐに反応して駆け寄る二振りに、伸太郎は冷静な声で言う。
「国広、今剣は引き続き現世に残って俺の護衛。 現代なので帯刀は禁止だ。」
「了解した。」
「わかりました!」
 その返事を聞いた伸太郎はカバンを持ってアヤノの方に向かおうとすると、国広が呼びとめた。
「主、荷物を持つ。 怪我もしているし、大事にしてくれ。」
「ありがとうな、国広。」
 短くお礼を言って、伸太郎はアヤノの方へと歩いていく。 それを静かに見送った国広は少しだけ主である彼の年相応な部分を見たような気がしてふっと微笑んだ。
「くにひろ、どうしたんですか?」
「ん? ああ、少しだけ主の年相応な部分が見えたなって思ってな。」
「なんかおやじくさいですね、くにひろ。」
「……え、そうか?」
 すこし間を置いて、国広が親父と言われて傷ついているのをスルーして、今剣はあたりを物珍しそうに見回した。
「これがあるじさまのいるじだいなんですね。」
「……ああ、そうだな。 見たことがない景色だ。」
「でも、すごくへいわそうです。」
「そうだな。」
 そんな話に入ってきたのは、セトだ。
「……あの、貴方たち今シンタローさんと一緒に暮らしているって本当っすか?」
 いきなり話しかけられてびっくりしながらも、国広が頷くとぱああと笑顔になったセトは伸太郎に聞こえないように言う。
「――シンタローさん、無理してないっすか? 彼、辛いことをとことん内側に溜め込んで限界を迎えると自分の体を傷つける方なんで……俺、ちょっと心配なんすよ……」
「……まだあ、いや、伸太郎と過ごしてそんなに時は経っていないが……無理している様子は見られない。 毎日それなりに笑顔で過ごせていると思う。 ……安心するといい。」
 セトの心配そうな言葉に、国広はふっと笑って応対する。 その言葉に安心したようにセトは笑顔にもどった。
「よかったっす。 これからもシンタローさんを宜しくおねがいするっす!」
 にこっと笑って彼は去っていく。 それを見計らったようにカノが国広に近づいた。
「ねぇ、そこの金髪の……人……かどうかは怪しいけど……まあ、そこの人さ、シンタローくんの事よろしくね。 見ての通り、貧弱で情けない人だけど、それでも、姉ちゃんの大切な人だし、僕にとってもそれなりに大切な人だからさ。」
「わ、分かった。」
 妙にするどいカノはニコっと笑って手を降って離れていく。
「あのこ、するどいですね。」
「ああ……そうだな。」
「……今剣、国広―!」
ふと、伸太郎の呼ぶ声が聞こえて国広と今剣はすぐに駆け寄った。
「どうしたんだ、主。」
「そろそろここを離れるぞ。」
 その伸太郎の言葉に国広は頷いて支度を初めた。
「了解した。」
 短くそう返事をし、主の少し後を歩く国広はひとり思う。 今回の件でわかった問題点のことだ。
 今のままじゃ、主がもしもこの時代へ帰ってきたときに襲われたら……今回よりもひどい怪我をするだろう、と。 それはいけない。 主を守らなければ。
「国広、今剣帰る前に少し家寄っていいか? 色々と荷物を持っていきたいんだ。」
「ああ、俺達は構わない。 荷物なら俺たちが持とう。」
「あるじさまについていきます!」
「ありがとうな、国広・今剣。」
 伸太郎は二人に笑いかけて歩いていく。 そんな伸太郎にアヤノはそっと近寄って笑うと、伸太郎は無言で手を差し出した。 戸惑うこと無くその手をとったアヤノは幸せそうに頬を赤らめて、太陽のような笑顔を浮かべる。
「あるじさまも、あのひとも……しあわせそうですね……」
「そうだな。 良い光景だ。」
「いきますか、くにひろ。」
「ああ。」
 主の過ごしていた時代、そしてこれからも過ごす時代のほんの隅っこのワンシーンのようなその光景に目を奪われた国広は、心の中で思う。
 この風景を変えてはならない、と。 過去の歴史が少しでも変わってしまえばきっとこの風景もなくなってしまう。

 きっと、歴史を守るとは根本的にはそういうことなのだと。
prev / next
△PAGE-TOP
HOME >> NOVEL
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -