審神者如月伸太郎の話【04】
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 その次の日、顕現した打刀・宗三左文字と共に演練へとやってきた一行。
「僕まだ右も左も分からないんですが。」
「すまんすまん……。 部隊は六振り編成だから数が足らなくてな……。詳しいことはまたあとででいいか?」
「ええ、まあいいですよ。 とりあえず、ひよこなりに頑張って戦ってきますよ。」
 宗三左文字はそういって笑う。 そんな彼にふっと笑い返して、伸太郎は山姥切国広たちを見送った。
 演練場では計5戦することができ、今回は全負けという結果に終わったが本人たちいわく学ぶことは多く合ったと聞かされた伸太郎はよかったと安心して微笑んだ。
「じゃあ帰るか。 そろそろ、鍛刀も終わってるだろ。」
「え、あのあとまた鍛刀したんですか?」
 びっくりしたように宗三が目を丸くした。 そんな宗三に伸太郎はニヤリとして歩いていく。
「しばらくは資源と相談しながら仲間増やしをしようかとおもっててな。」
「まあ、あなたがそうきめたなら僕は何も言いませんけど。」
「宗三の兄弟も早く迎えに行きたいな。」
「……そうですね。」
そうして、本丸に帰ってきた伸太郎は山姥切国広と共に鍛刀場へとやってきていた。 刀を受け取り、名前をつぶやく。
「――江雪左文字。」
 桜吹雪が舞い、現れた水色の長髪を揺らす刀剣男士は主の姿を視認するとゆっくりと口を開いた。
「……江雪左文字と申します。戦いが、この世から消える日はあるのでしょうか……?」
 その自己紹介を聞いた伸太郎はこういう刀もいるのかと内心びっくりしていた。もちろんそれを顔に出すことはない。
「江雪左文字……か、宗三左文字と同じ刀派の刀だな。 江雪、お前のその力を使って仲間を守ってくれ。 戦いに行くんじゃなく、仲間を、そして歴史を守ってくれ。お前の力が必要だ。」
 伸太郎がそう言って江雪へ手を差し出すと、江雪は目をパチクリとした後に微笑んだ。
「……ええ、そうですね。 守ってみせましょう私のこの力で。」
「歓迎するぞ、江雪左文字。 俺はここの主の如月伸太郎だ。」
 差し出された手をそっと掴んだ江雪左文字に、そばにいた山姥切国広が近づいた。
「俺はここの初期刀の山姥切国広だ。 江雪、お前の兄弟が居間で待っているぞ。」
 兄弟ときいて、江雪は一拍おいて笑う。
「よろしくおねがいします。」
 そうして鍛刀場から出ていく二振にふっと安心したように笑った伸太郎はふとポケットにいれたスマートフォンが震えていることに気がついた。
「……桃?」
 それは妹からのLINEメッセージであった。 写真が添付されていて、それを開いてみればそれは懐かしい仲間の顔だ。 メッセージによれば、ちょうどヒビヤとヒヨリが東京へ出てきているようだ。
「――、少し生活も安定してきたし一回帰ってみるか。」
 なんてことをつぶやきながら、鍛刀場を出ると目の前にはなぜか山姥切国広の姿があった。その後ろには江雪の姿もあり、思わずびっくりしつつ、首をかしげる。
「遅いから何か合ったのかと。」
「ああ、そうか。 すまん、家族からメッセージがきていてな、見てたんだ。」
 そう言うと、国広にスマートフォンの画面を見せる。 珍しいものをみるような目でその画面をみた。
「これが主の家族と仲間たちなのか。」
 国広がそうつぶやくと、江雪がつられてスマートフォンの画面を覗く。物珍しそうに目をパチクリさせる江雪にふっと笑うと口を開いた。
「そうだ。 個性的なやつらだが、嫌いじゃない。」
「主に会いたがっているような文面だな。 顔を出してくればどうだ?」
 そういってふっと笑う国広に伸太郎は目を見開く。
「どうした?」
「いや、俺から言おうかと思っていたから先を越されてびっくりした。」
「そうか。 主、こんなところで話していてもアレだ。 みんなのところへ行こう。 江雪を紹介しないといけないだろう。」
「そうだな、行くか。」
 本丸の廊下を歩く。 天気はよく、これから刀たちが増えたらきっとこの静かな光景も賑やかになるんだろうなと想像してふっと笑った。
「――いつか、この本丸に招いてくれ。 今よりも賑やかになるであろう、頃に。」
 そう隣を歩く国広が伸太郎の目をみて言うと、それに笑みで答えて再び口を開いた。
「江雪、国広、この広い本丸が賑やかになるのが、楽しみだな。」
 赤いジャージをはためかせてそういう伸太郎は自然な笑顔だった。 そんな笑顔に国広と江雪は目を合わせて笑う。
「そうだな。」
「……そうですね。」
 そんな話をしながら居間に戻ると、薬研と山伏が腕立て伏せをしていた。
「なにしてるんだ?」
 困惑しながら国広が居間へ入って手頃な位置に座る。
「ひまだったからってやまぶしがやりはじめたところにやげんがくわわったんです!」
「僕たちも誘われたんだけど、ちょっとパスしたんだよねぇ。 きつくって……」
「僕もごめんですよ……」
 呆れ顔の宗三左文字が、ふと国広のほうへと顔を向けた瞬間彼は目を見開いた。 そこには、水色の長い髪の毛をはためかせて、同じように目を見開いている江雪左文字の姿が合ったからだ。
「兄様……ですか?」
「……ええ、そうですね。 会えて嬉しいです、宗三。」
 そんな兄弟の出会いを見た国広は笑う。 伸太郎が国広の隣に座りながら彼の紹介をした。
「今日から仲間に加わった江雪左文字だ。 宗三左文字とは同刀派の兄弟だな。」
 短めの説明だが、仲間には十分伝わったようだ。わあ、と今剣が江雪へ駆け寄って行く。
 みんなが江雪へよっていき、順番に挨拶をしていく。 そんな光景が何よりの幸せなことかと、伸太郎は笑う。
「あのさ、俺少しみんなに会いに行こうって想うんだが……」
 そう切り出した伸太郎の方をみんなが向く。 顔を向かい合わせて数秒考えた後、みんなが笑顔で頷いてくれて伸太郎は優しい子ばかりだと自分の刀たちを誇る。
「主もここらへんで休息が必要でしょう。 行ってくればいいんじゃないですか?」
 宗三がふっと笑って言う。 彼は兄弟と出会えたことで、表情が増えたようだ。
「ご飯作るのも慣れてきたしな!」
「カッカッカッ、存外楽しいものであるぞ!」
 薬研と山伏が腕立て伏せをやめて、汗を吹きながら笑って言う。
「あるじさま、ぼくたちならだいじょうぶです! いってきてください!」
「洗濯とか、掃除とか、お風呂の準備とか、最近ようやく勝手がわかってきたから大丈夫だよ。行ってきたら?」
 膝の上に今剣を載せた安定が軽いノリで言う。そんな彼の優しさにふっと笑って国広もまた同意した。
「……だそうだ、行ってくるといい。 江雪へのいろいろな説明は俺たちでしておこう。」
「……私なら大丈夫ですよ、貴方が帰って来るまでにここでの暮らしに慣れておきましょう。」
 江雪も笑って頷いて後押しをしてくれる。そんなみんなにありがたさを覚えながら、伸太郎は口を開いた。
「そうだな、お言葉に甘えて明日行ってくるか。 よーし、今日も元気に演練行くか! 今回は、メンバー入れ替えて、山伏はお休みで、江雪がその枠に入ってもらう。」
「カッカッカッ、了解である主殿!」
「……了解いたしました。」
 ぶっつけ本番で本物の戦場へ出すよりは、やっぱり演練という場で戦闘へ慣れてから行かせて少しでも不安を減らしたいというのが伸太郎の考えだ。 少しでも長く、みんなと共に在るために。
「演練から帰ってきたら、明日のことについていろいろと決めておこう。 明日は一日主がいない、これは初めての事だからな。」
 国広がそういうと、みんなして頷いて立ち上がった。
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