審神者如月伸太郎の話【03】
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 鍛刀してから3時間後、再び鍛刀部屋にきた伸太郎と国広は鍛刀式神からできた刀をもらい顕現体制に入る。
「さて、いったい誰がくるのか……。」
「楽しみだな。」
 そんな会話をして伸太郎は力を込めた。 そうして頭に浮かんだその名を、刀に触れて呟いた。
「――山伏国広」
 その名を告げれば、桜の花びらが舞い中から一振りの元気すぎる声が響いた。
「カカカカカ! 拙僧は山伏国広と申す! 日々、これ修行である!」
 名前を聴いて、声を聴いた時の山姥切国広の表情は目を見開いたまま動くことを忘れたかのように立ち尽くしていた。
「ようこそ、山伏。 俺は此処の主、如月伸太郎だ。 俺の後ろで立ち尽くしているのが山姥切国広。 お前とは同じ刀派で、兄弟だな。」
「あっえ、あ、山姥切国広……だ。」
 いきなり話を振られた国広がおろおろしつつ自己紹介をする。 その様子をみた山伏は景気良く笑うと口を開いた。
「カッカッカッ主殿、よろしくお頼みもうしあげる! そして、兄弟。 会えて嬉しいのである!」
「ああ、俺も兄弟にあえて嬉しい。」
 そんな兄弟の再会の傍らで、伸太郎は声を上げる。
「あ、山伏。 俺、山姥切国広のことを国広って呼んでいるんだ。 だから俺が国広って呼んだら山姥切国広のことだからそこだけ教えとくな。」
「カッカッカッ了解したのである主殿。」
 そういって頷いた山伏に満足したのか伸太郎は鍛刀部屋の扉の方へ歩いていって振り返る。
「じゃあ二振とも、行くぞ。 山伏のことをみんなに紹介しないとな。」
「そうだな、行こう兄弟。」
「そうであるな!」
 伸太郎の後に続いて、国広と山伏は鍛刀部屋をでて行く。 そうして、みんなが居る部屋へとついた伸太郎はみんなに目を向けてニヤリと笑った。
「今日、本丸の仲間に加わった刀を紹介するぞ。」
 そう言うと、みんなは顔を明るくする。 やはり、仲間が増えるのは楽しいものだからだ。
「カカカ! 拙僧、山伏国広と申す! 兄弟である山姥切国広ともどもよろしく願申し上げる!」
 景気良く笑って山伏国広は自己紹介をするのを見届けた山姥切国広は、ふっと笑って口を開く。
「兄弟のことは山伏と呼んでやってくれ。 さっき俺が国広と呼ばれていることは説明してあるから大丈夫だ。」
「そうですか! じゃああらためて、ぼくは今剣といいます! よしつねこうのまもりがたななんです!」
 そう言ってぱたぱたと山伏の元へと走っていく。 そんな今剣と目線を合わせた山伏はニコッと笑った。
「カカカカ! 今剣殿、よろしくお願い申し上げるぞ。」
「はい!」
 大きい背の刀が来たことが嬉しかったのか、今剣は輝くような目で山伏を見上げている。 そんな今剣を見ながら安定は立ち上がる。
 そうして全員の自己紹介が終わった所で、伸太郎は山姥切国広に目を向けた。
「国広、少しいいか。 山伏は、みんなに混じって生活の知恵をつけててくれな。 すぐ戻る。」
 伸太郎は国広を連れて部屋をでて、自分の部屋へと国広を招き入れた。
「主、どうしたんだ?」
「初期刀であるお前にはみんなには伝えない秘密を教えておく。 今からお前に見せる部屋はもしものことがあった場合に限って刀剣たちの立ち入りを許可する場所だ。」
 そう言って伸太郎は自室の奥、不自然に掛け軸が掛かっているそこをめくりあげた先に合ったのは一つの鍵穴だった。 そこに伸太郎が持っている鍵を差し込んで回せばそこは奥に開いていく。 くぐっていった先に見えたのは山姥切国広にとっては見たこともない景色だった。
「……なんだ、ここ……。」
 その先に広がっていた光景に山姥切国広は目を見開く。 伸太郎はそんな国広をみてニヤッと笑って手招きした。

 一方、生活の知恵をつける本を読んでいる残された刀たちはふと疑問を口にする。
「ねぇ、気になっていたことがあるんだけどさ。」
「どうしたのであるか?」
 大和守安定の疑問に山伏国広が首を傾げた。 安定はそんな山伏の方を向いて口を開いた。
「主の首と手首、なんか薄っすらと傷があったよね。 だれか気がついた?」
「あー、俺は気がついたぜ。 首のやつは刺し傷、手首のやつは切り傷ってところか。」
 薬研がそう分析していると、心配そうに今剣が安定の膝の上で表情を歪める。
「あるじさま、かこになにかあったんでしょうか……」
「表面的には元気だし、精神的にも安定してそうな感じはするが……なんだかいろいろと危うい面もあると俺はふんでる。」
「あー、それは正直同意。僕たちまだ人の身を得て時は経ってないけれど……人をずっと見てきたからわかるんだよね。 まあ、そういうのってさあまり詮索されたくないかも。」
「たしかに……じゃああるじさまがいってくれるひをまつしかないですね!」
「それがいいと俺も想うぜ。」
「カカカカ! 少なくとも、この本丸にいる主殿は楽しそうに見えるのである。 それで今は大丈夫であろう!」
「そうだね!」
 そう話していると、伸太郎と国広が広間へと帰ってきた。 おかえり、とみんなで声をかければふっと笑って二人はただいまという。そんな光景をみた山伏はふと伸太郎の首に目が行く。 そこには確かに傷跡があり、それはとても痛々しく見える。 しかし当の本人はそんな素振りは全くなく、少々不器用ではあるが笑顔を浮かべていた。
「主殿、こうして人の身を得て見る景色はきれいであるなぁ。 正直、すごく楽しいのである。」
「そうか、楽しんでくれているなら嬉しい。」
 伸太郎は、そういってふっと笑う。 そんな伸太郎を見て、山姥切国広の方へと視線を移した山伏国広は再び口を開いた。
「兄弟というものは、こう……無条件に愛らしいのであるな、主殿。」
 はじめて触れる感情に山伏はとても楽しそうだ。 そんな彼をみて、伸太郎は笑いながら、山伏の手を引いて輪の中に入っていく。
「俺達はまだまだ始まったばっかりだ。 これからまだまだ楽しいことだって苦しいことだってある。 でもそれが人生ってもんだろ。 めいっぱい今を楽しもう。」
 そういう伸太郎に、広間にいたみんなは頷いた。


 ここ最近の食事の用意は山姥切国広をリーダーとして全振で挑戦している。 本を片手に一生懸命なみんなを見ながらサポートをする伸太郎は、とても楽しそうだ。
 本丸で初めて料理を始める時、伸太郎は国広にこう告げていた。
「――いいか、国広。絶対に料理はアレンジをするな。 特に初心者ならなおさらだ。 そういうアレンジはこなれてきた頃にやるものだ。 本通りにやれば絶対にできる。」
 この言葉に国広は確かに頷いた。 そんな彼に安心したから伸太郎はこうして見ていられるのだ。 身内に独特な味を好む者がいるからどうしたってこういうのには気を使ってしまう。
「わかった。 頑張ってみよう。」
「俺は、基本的に見守る立場にするな。困ったら絶対に助けるから。」
「ありがとう、主。」
 そんな会話をして、彼らは料理を始めたわけだが順調そうで安心したように伸太郎は飲み物に口をつける。
「料理しながら聞いてくれればいいんだが、この後一回鍛刀回すぞ。 そして明日やってきた刀と一緒に演練に行こう。」
「でも、今の俺達がいっても……」
「俺たちはまだ戦闘経験が少ないからな。 勝てる可能性は少ないだろう。 だがな、学ぶことはあるだろ? それを実践に活かせれば万々歳だ。」
 何事にも学びは必要だろ、と伸太郎は静かに告げる。 その言葉に一同は少し考えて笑みを浮かべて頷いた。
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