審神者如月伸太郎の話【01】
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 筑前国、とある本丸。
 その本丸は始まって3年ほど経つ古参とも言える本丸であった。 その本丸に所属する刀剣は現在72振。
「主、おはよう。」
 とびきりの笑顔で部屋を開けたのは近侍である燭台切光忠。 彼の背後から刺す日差しに目を開けた主である俺は大きくあくびをする。
「ああ、おはよう。光忠。」
「また夜遅くまで起きていたでしょう? もう、体壊すから早く寝てっていつも言っているのに。」
「すこし政府に出す書類が溜まっていたからな。」
「えっ……言ってくれれば手伝ったのに……もういつもそうやって一人で片付けちゃうんだから……」
 そう言って盛大なため息を吐いた光忠は数秒後にはもう意識を切り替えて俺に向かって笑顔を向ける。
「朝ごはん、出来ているよ。 みんなもう集まり始めているから主も早くね。」
「ああ。」
 頷くと光忠は扉を静かに閉めて去っていった。 こうして俺――如月伸太郎の一日は始まるのだ。



 俺が審神者となったのは今から3年ほど前。 ペットの殿の餌を買うために街へと出ていた俺にとある男が唐突に話しかけてきて、すべてが始まった。
 その男は今の直属の上司であり、恩人である。 そりゃ、話しかけられたときは”何だこの変人は”と怯えたものだったが、話してみればとても優しく仕事に真面目な人だった。
 当時俺は、審神者としての知識はおろか必要な呪術もしらないひよこ状態だったが、それは政府が用意した教育機関でなんとか身につけることができた。
 その過程で分かったのはどうやら俺は攻撃系の術の才能に乏しいこと、そして防御系、支援系……揺するに攻撃以外の術だったら割と何でもこなせるらしいことがわかった。 そこで教えられたのは術のほかにも和服の着方や昔の字の読み方など、まあ色々なことを教わったものだ。
 昔から、勉強は得意な方だった俺だったが学校で教えないような知識ばかりで少し楽しかったのを今でも覚えている。
 そうして晴れてその教育機関を出て、最初に俺がやったのは最初の刀を選ぶことだった。 なんかよく知らない男にシンプルな空間に連れて行かれたと思ったら目の前には打刀が5振。 順を追って見ていくうちに俺が目を惹かれたのはとある一振りの刀。
「……あの、俺この刀にします。」
「では、触れて名前を呼んであげてください。」
 その男が言う通りに、俺はその刀に触れて名を呟く。

「――山姥切国広。」

 そう名を告げれば、その刀は光りに包まれその光から桜の花びらが舞いしばらくしてそこに立っていたのは恐ろしい程に美しく、そして、かっこいい俺と同じ背の男。 その男は白い布で顔を隠してはいるがまっすぐと綺麗な瞳で俺を射抜いて口を開いた。
「山姥切国広だ。……何だその目は。写しだというのが気になると?」
 開口一番にこう言った山姥切国広にふっと笑う。 怪訝そうな表情を浮かべた山姥切国広にあわてて俺は口を開いた。
「山姥切国広、か。 うん、思っていたとおり、すごくカッコいいな。 俺は如月伸太郎――よろしくな、国広。」
 そう言った俺の表情はどういうものだったのかはしらない。 けれど、山姥切国広はばっと顔を赤くして布を深くかぶってしまった。 少ししてはっとして顔を上げた山姥切国広は無表情だった顔を少しほころばせて口を開く。
「ああ、これからよろしくな。 主。」
 俺が差し出した手を迷いなく握った山姥切国広はこう言って少し微笑んだのだ。

 そうして始まった俺と国広の本丸はとても静かなものだった。 しかし、初めて鍛刀してきた今剣が着てからは少し賑やかになったものだ。
「あるじさまー、なにをしてるんですか?」
 厨に立って晩ごはんの準備をしていた俺に今剣が興味津々の瞳で見上げてくる。 ふっと笑って、今剣の頭をなでて俺は言う。
「これから食べる食事を作ってるんだよ。 これでも料理は得意な方だから、期待しておけよ!」
「あるじさま、しょくじというのはたいせつなのですか?」
「……? ああ、そうか。 そうだよな……。」
「あるじさま……?」
「ああ、すまん。 食事はな、大切だぞ。 食べなくちゃまず元気が出ない。 力も入らない。」
「それはたいへんです!」
「だから、お前らがそうならないように頑張るぞ。 今剣は国広とここに書いてある食材を倉庫から持ってきてくれ。」
「わかりました!」
 そう言うと今剣は楽しそうに駆けていく。 まだ二振しかいない本丸だが、やっぱりこういうのはいいな、と笑う。
「しかし、二振ってのも少ないか……。晩ごはん食べ終わったら一振り鍛刀してみるのもありか……? 初出陣は敗北したし、明日二回目の出陣をするとして……」
「主、何をしている。」
 ふと、そこに立っていたのは今剣とともに食材を取りに言って帰ってきた国広だった。 隣に今剣もいる。
「ん?ああ、少し考え事をな。」
「考え事をしながら包丁を使うと怪我をするから気をつけてくれ。」
「ぼくたちとちがって、あるじさまはけがをすぐになおせないのですからきをつけてください!」
「そうだな、分かった。」
 国広と今剣の優しさに微笑みながら俺は料理に集中した。 その後、国広と今剣とともに料理を作って一人と2振りで卓を囲んだ。
「食べる前に、ちゃんといただきますだぞ。」
「……いただきます?」
「ああ。昔から食材への感謝とか色々なことをこめて日本人は食事の前に”いただきます”食後に”ごちそうさまでした”と言っていたんだ。 大切なことだぞ。」
 そういった俺に二振はご飯と俺を交互に見比べて頷く。
「……そうなのか。分かった、覚えておこう。」
「ぼくもおぼえておきます!」

 そう言って笑い合って食事をとった後、俺は国広とともに鍛刀部屋へと来ていた。
「鍛刀するのか?」
「ああ、二振じゃあ流石に少ないと思ってな。 仲間は多いほうが良いだろう。」
「……そうだな。」
 納得したような素振りの国広に俺は考えていたことを意を決して言ってみることにした。
「国広。」
「なんだ?」
「今後、近侍を誰かに交代する事があるかもしれない。 ……というか、あれだ。お前には近侍ではなく、みんなを導いていく第一部隊の隊長になってほしい。 近侍と第一部隊隊長は分けたいんだ。」
 その言葉に国広は目を見開いて、戸惑いがちに口を開いた。
「俺が第一部隊の隊長に……?」
「ああ。 今日一緒に過ごしてみて思ったんだ。 お前はリーダー……みんなを導いていく立場があっていると思った。 なんて言ったって、俺の一目惚れした刀山姥切国広だからな。」
 ドヤ顔で言った俺に、照れたように布を深くかぶった国広を見て、俺は笑う。 
「言っておくが、嘘じゃないからな。 俺はな、あの5振りを見てて最初に目を惹かれたのがお前だった。」
「……分かったから、もう、いい。」
 照れる仕草、この本丸ができてまだ時間は経っていないけれど、もう何度も見たそれに俺は笑う。
「そうか。 じゃあ、鍛刀のお供よろしくな。」
「ああ。 そういえば、主。」
 ふと何かを思い出したように国広は俺を見て口を開いた。
「俺の他にあと2振程国広という刀がいるが……どうするんだ?」
「え? ああ、呼び方のことか。 国広って呼ぶときは山姥切国広で、堀川国広は堀川、山伏国広は山伏って呼ぶことにする。 やっぱり、お前は初期刀で特別だからな。」
「……そうか。」
「さて、やるか。」
 そうして俺は、鍛刀をするべく力を集中させた。 そうして時間がたち、顕現させた刀は見た目からもう新選組関係の刀だとわかる子。
「大和守安定。 扱いにくいけど、良い剣のつもり。」
 長い髪を後ろで束ね、パッと見女の子にも見えるその刀剣に俺は手を差し出した。
「はじめまして、俺は主の如月伸太郎だ。 よろしくな、安定。」
「あなたが新しい主だね。 よろしく! 僕は沖田くんの愛剣なんだ。」
「なるほど沖田総司の……!」
「あれ、主沖田くん好きなの?」
「というか、俺歴史関係では割と新選組は好きなんだ。」
「本当? なんだか嬉しいなぁ。」
 そう言って笑う大和守安定と俺を見比べて山姥切国広は安心したように笑う。
「俺はこの本丸の初期刀、山姥切国広だ。」
「ぼくは今剣! この本丸の2番めの刀で、よしつねこうのまもりがたななんですよ!」
 俺の隣りにいた山姥切国広と、いつの間にか鍛刀部屋に来ていた今剣が大和守安定に挨拶をする。
「こちらこそ、よろしくね。」
 刀たちの親睦も深まり、それを見守る俺は新しく始まった日々に胸を踊らせていた。 こんな楽しいと思えた日々は久しぶりである。 ポケットからスマートフォンを取り出して見れば、新生活を心配したアヤノからメッセージが届いていた。 返事を返しつつ、俺は空を見上げる。
 新しい生活は、まだ始まったばかりだ。
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