可能性反転世界【LIVE】
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 兄が死んだあの日から、私とお母さんの時間は止まってしまった。 父親の死で立ち直りかけていた所にあの仕打ちは、やはり辛い。
 毎日毎日、泣いて、どうしてなんて行き場のない問いかけをしていたりして。
 現実を受け入れる余裕すら無くて、たった二人になってしまった血の繋がりを毎日かみしめている。
 生活は苦しく、母は働きに出て私を養うために頑張っていた。
 そんな姿を見て、私はなにか力になれたのならとずっと想っていたんだ。 たった二人しかもう残されていない家族を助けたいと思うのに、理由はいらないでしょう?
「ねぇ、君、アイドルに興味はない?」
 そんな話が舞い込んできたのは私が高校1年生になってから直ぐのこと。 最初は悩んだし、断ろうかと思ったけれどお母さんの事を思い出した。
 父親が死んでから、私は何故か人の目を異常に集めるようになって毎日それが苦しくて辛かったけれど、アイドルという仕事ならこれを活かせるかもしれない。 そして、それはきっとお母さんを助けることにつながる。
 金銭的にも、きっと精神的にも。

 だから私は今、此処に居る。 このステージは今、私の居場所だ。 辛くても、苦しくても私は笑顔を振りまいて、ファンの子を楽しませ無いといけない。
「お疲れ様でしたー」
 この日も夜遅くまでの仕事を終えて、マネージャーさんに家の前まで送ってもらった私は車の開いているドアからお礼を言い、家へと入る。
「……ただいま。」
 そして、家に一歩入った瞬間。 私の表情は、崩れてなくなっていく。
 仮初めの笑顔も、何もかもが浮かべることが出来ない。
 とぼとぼと歩いて、入っていったのは兄の部屋。
 今もあの日のままこの部屋は存在している。 片付けることなんて、出来やしなかった。

「なんで死んじゃったの。 なんで、私達を置いていったの……ねぇ、お兄ちゃん……」
 そう言って何度、兄の部屋で泣き崩れただろう。 あの日から私は、死にたいとずっと想っていた。 けどそれをしないのは母がいるからで。
 どん底の日々と言っても過言ではない、そんな生活の中で私が出会ったのは不思議な団。
 私と同じ、目に関する不思議な能力を持つ子達が集まって出来た団らしく、名前はメカクシ団と言うらしい。
 その団の創設者とも言える人物が、私のずっと憎んでいる人物だと知ったのは加入してからだった。 名前は、楯山文乃。 お兄ちゃんのクラスメイトで、同学年で唯一仲良くしてくれていた子。 だからこそ私は、なんでお兄ちゃんを助けてくれなかったのなんて言う自分を棚に上げた憎悪を向けていた。
 その人と初めてあったのは皮肉にもお兄ちゃんのお通夜で、私はあの人を見かけるとずっと目で追って睨みつけていたのを今でも覚えている。
 どの面下げてやって来たんだ、と見難い感情をずっと眼差しに込めてあの人にぶつけていた。
 そんな感情は時が経っていくに連れて、変化していく。 今はもう、あの人を憎んでは居ない。 きっと高思えるようになったのはメカクシ団に入って、皆と触れ合ったからだろう。
 この人達に出会えて、本当に良かったって心から思える。 何故ならばこの人達に出会えたから私はまた生きていこうって思えたのだから。

 だから今度は、アヤノさんに生きていこうと想って欲しい。 ずっと閉じこもって兄のために泣き続けてくれている人を、助けたい。
 きっとお兄ちゃんもそう想っているはずだ。

「もう、大丈夫だよ。 お兄ちゃん。」
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