あれから2年の月日が経った。
そして、私が部屋に引きこもるようになってからも2年が経った。
あの日から私は、廃人のような生活をしている。 そういう自覚はあるけれど、治す気はない。 私が前を向いたら、私があの日から立ち直ったら、彼があの日助けてくれことを忘れてしまいそうだから。
彼を忘れない為に、私は部屋にこもる。
彼を失った日から、私は一歩も前へ進んでいない。
「アヤノ、ちょっと出かけてくるな。」
扉の向こうから父親の声が聞こえ、私は其れに短く返事をする。
「分かった、行ってらっしゃい。 気をつけてね。」
こうして返せるようになっただけ、まだマシなのかもしれない。 そんなことを考えながら、私は誕生日に父親が買ってくれたパソコンの電源を入れた。
「あれ、なんかメールが届いてる……」
パソコンを機動して直ぐ、通知が鳴りクリックすれば其れは件名が無題と書かれたメール。
なんだろう、と想ってクリックすれば本文は書かれておらずその代わりにとあるファイルが添付されていた。 深く考えずに其れをクリックすれば、そのファイルは音を立てて開き思わずびっくりしてしまう。
「えっ? なにこれ、ウイルス?」
そういえば、前お父さんに不審なメールは絶対に開くなと言われてたのを忘れていた。
「ど、どうしよう……」
おろおそろしていると、男の子の声でパソコンから話しかけられる。
「あ、あのー」
「へっ? え? 貴方、誰!?」
「はじめまして、ご主人。 僕は、コノハっていいます! 今日からこのパソコンに住まわせていただきますので、よろしくお願いします!」
「え、あ……はい?」
よくわからないまま、返事を返して数分の静寂。
「えっ、住む!?」
「だ、ダメ……ですか?」
「い、いや、ダメじゃない!です!」
上目遣いの涙目で言われてしまっては、断れない。 そして私はコノハというパソコンの中の男の子との奇妙な生活が始まる。
「ご主人―、外行きません?」
「行きません。 暑すぎて倒れちゃうよ。」
「こんな生活してるから体力つかないんですよー」
「わかってるけど……」
そんなことは分かっている。 しかし今日の暑さは、とても現ヒキニートである私には無理だ。
「そういえば、ご主人の弟妹さんたちのメカクシ団?っていう奴に新メンバーが入ったみたいですよ? えーと、名前はたしか……そう、如月モモっていう……?」
コノハから呟かれた言葉に、私は目を見開いて驚くことしか出来ない。 そんな時、コンコンと扉がノックされた。
「姉さん? 俺だ、今から皆で買い物に行くんだが…… 姉さんもいかないか?」
「……つぼみ、えっと私は……」
返事につまっていると、コノハが勝手に返事をしてしまった。
「あ、行きまーす!」
「えっちょっとコノハ何を勝手に!」
「ほらほら、僕はちょっと引っ込んでるんで早く着替えちゃってください!」
「えっえー!?」
一方的に言われてコノハはパソコンの奥に引っ込んでいってしまう。 盛大なため息を吐いて、立ち上がると適当に服を選んで着替えた。
コノハをスマートフォンへと移して、扉を開けるとつぼみは安心したように笑う。
「じゃあ行こう姉さん。」
「う、うん……」
そして私は、二年ぶりに外の世界へと踏み出した。
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