ふと、目が覚めた。 見慣れた天井が見えて、目をパチクリさせながら起き上がる。
「あれ……?」
昨日私はどうしていたんだっけ?
途中から記憶が飛んでいる、ええと。
あ、そうだ……私はシンタローに助けられたんだ。
そのせいで、シンタローが死んじゃってショックで気を失ってしまったのだ。
思い出した、全部。
大切な人を巻き込んで、死なせてしまって……私は生き残ってしまった。 これからどうやって生きていけばいいのだろう。
何がヒーローだ、何が姉だ。
「……。」
これは罰なのだろう。
命を軽々しく投げ捨てようとした私への、罰なんだ。
どんな理由があれ、自殺は一番やってはいけないことだったのに。
弟妹達に宿ったあの目の能力をどうするかだって決めていないし、父親のことを取り戻すことだってできていないのに。
「馬鹿だなぁ……今更気が付くなんて。」
もう二度と、彼には謝れない。
もう二度と、あの不器用な笑顔に触られない。
もう二度と、私の想いは彼へと届かない。
――もう二度と、シンタローと会えない。
そう自覚した瞬間、私の涙腺は崩壊した。 気が狂ったように泣き叫んだ。 気が済むまで泣いてしまおうとヤケになっていたのかもしれない。
嬉しかったのは、家族が皆私を気遣って放っておいてくれたことだ。
でも、今の私はそのことに感謝の気持ちを述べられるほど、余裕がなかった。
それから数日後、私は彼の告別式へと父親に連れられてやって来ていた。
あの日の真実は、私と修哉しか知らない。
だからこそ誰も私を責めず、友達を失って辛いでしょうと同情されたり励まされたり。
いっその事攻めてくれればいいのに、なんて想っていた矢先のこと。
私は、彼の妹であるモモちゃんと目があった。
「……あ、」
目があった彼女の瞳は燃えたぎるような、憎悪を持って私を――そう私だけを睨みつけていたのだ。
まるで、アンタのせいだと言わんばかりに。
望んでいたことだったはずなのに、私を責めて欲しいと願っていたはずなのに。
その憎悪に燃えたぎった瞳を見て、どうしようもない恐怖に襲われた。
――ふと、前シンタローが話してくれた過去を思い出す。
父親を失った、彼女。
父親に助けられた彼女。
そして、私が結果的に彼女にしてしまったことの意味。
憎まれて当然だ。
アンタのせいだと言わんばかりに? ――違う、これは正真正銘、私のせい。
私のした行動が結果的に彼を殺して、父親を失った彼女からまた家族という大切な存在を奪っていってしまった。
愚かすぎて、話にならない。
いつだって私は、気が付くのが遅すぎる。
こう白々しく、告別式に出席する資格などありはしないのに。
何もかも、自分のしたことに対する結果だ。
「……。」
謝ることすら、出来ない。 だって、あの日の真実を知るのは私とあと、もう一人。 弟の修哉だけなのだから。
彼女は何も知らない。 彼女は知る由もない。
「お父さん、ごめん。 私、もうあの学校には行けない。」
シンタローの告別式から帰ってきた私がやっと絞り出した言葉は、無様に涙で震えていた。
そんな私の言葉を、お父さんは確かに、そして真剣に聞いてくれている。
「分かった。」
そう短く言葉に出したお父さんは、ぽんと私の頭に手を載せて撫でると微笑んで私に背を向けた。
そんな父親の背中を見送った私は、自分の部屋へと行くために歩き出す。
その手に持たれていたものは、アヤノが夏でさえ外すことのなかった赤いマフラーで、それは彼女がもう、ヒーローであることを諦めたことの証だった。
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