メカクシ団がALO入りする話【29】
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 その後、エギルのお店で開かれたオフ会に皆で参加したシンタローはそこでももみくにされていたが、本人は凄く楽しそうに皆と話し込んでいる。
「シンタローもアスナも元気そうでよかった。」
 カウンターでお皿を吹きながらエギルは和人にそう呟く。
「そういや、キリトあの件シンタローに言ったのか?」
「まだ。 とりあえず、昨日のログインで色々調べてきた。 何人かもう行ったらしいんだけど、やっぱり受け付けないんだってさ。」
「――受け付けない?」
 エギルが手を止めて口を開く。
「ああ。 近づくと威嚇されるし、だからといって攻撃してくる素振りもない。 それを見たとあるプレイヤーは”まるで誰かを待っているようだ”と思ったらしい。」
 実はALOはこの間復帰していた。 俺がエギルに託した世界の種子”ザ・シード”のお陰でまだ蘇ったのだ。 そのプログラムにはとある城のデータと、そしてとあるクエストプログラムが同封されていた。 そのクエストプログラムの名前は” 黒き蛇龍の再誕”そう、SAO内でシンタローの相棒であったニーズヘッグのクエストだ。
 そのクエストはALO内でも特殊だと言われる。 その理由は、そのクエストを受けるには別のクエストを受けなければいけないのだ。 名を” 神風に吹かれし伝達者”と言われるそのクエストは所謂負けイベというものである。 そのクエストをクリアすれば、晴れて” 黒き蛇龍の再誕”というクエストを受けることが出来るのだ。
今まで何度も名のあるプレイヤーがそのニーズヘッグに会おうとそのクエストを受けたが、ニーズヘッグはどのプレイヤーにも心を開かず、かと言って攻撃してくる素振りもないその龍はただひたすら地下からかいま見える空を見ながら誰かをひたすらに待っているらしいのだ。
 この話をキリトが聞いた時、最初に”殿”のことが頭に浮かんだ。 それからと言うもの、ALOにログインしてはそのクエストに関する情報を集めていたのだ。
「そりゃもう殿でいいじゃねえか?」
「まだ確証が無いんだ。 だから、調べてみないとなんとも……」
「調べるっていってももう聞き込みも限界だろ?」
「……まぁな。」
 そう言い、ため息をつく和人。 ふとシンタローがそれに気づき近寄ってくると心配そうに和人の顔を覗き込む。
「どうしたんだ?」
「い、いやなんでもない!」
「……キリト。」
「はい。」
「俺にそれが通用しないことくらいもう学習したかと思ったよ。」
「……。」
「よし、吐け。 ――じゃないとお前の勉強手伝ってやらないぞ? 俺はな妹の勉強も見なくちゃいけないし他にもいろいろ頼まれごとしているんだ。」
 そう和人をSAO時代と同じような目で射抜く。 その視線の怖さを身を持って体験している和人は降参したとでも言いたげに両手をあげる。
「は、吐くからそれは勘弁……」
 ただでさえ大切な中学校時代の最後をゲームで過してしまった和人は今の歳相応の勉強に追いつくまでは大変なのだろう。
「――んで、何を話していたんだ?」
 堪忍した和人からもたらされた話にシンタローは目を見開くことしか出来ない。 半ばあきらめも会ったSAO内での唯一無二の存在であった“殿”と会えるかもしれないからだ。
「でも、まだ確証はないぞ?」
「それでも……会えるかもしれないんだったら……希望があるなら……行ってみたい。」
 そのシンタローの言葉に和人は微笑んで頷いた。
「分かった。 全力でお前のサポートしてやる。」
「え、一緒に行ってくれる……のか?」
「当たり前だろ。 そのために俺は調べていたんだ。」
「……ありがと。」
 そう言って笑ったシンタローにカウンター越しのエギルは安心した用に微笑んで何やら裏から紙袋を取り出した。
「シンタロー。 これは俺からの退院祝いだ。」
「あ、ありがとう。 え、これなに?」
 不思議そうにその紙袋の中身を見ればそこには目を疑うようなものが入っている。
「俺とクラインからアミュスフィアとALOのソフトだ。」
「えっそ、そんな高いの貰っていいのか?」
「良いに決まっていんだろ。 俺とエギルはお前を助けにいけなかったからそのくらいは当たり前だぜ。」
 エギルとクラインは和人からシンタローがALOの中でどういう状況で何をされていたのかを聞いてから、シンタローへの退院祝いの品を何にしようか考えていた。 だってALO内であんな目に遭っていたのだ。 アミュスフィアとALOのソフトをあげるには残酷すぎる気がした。
 実を言えば今日エギルとクラインはシンタローの顔色を見て、あげるかあげないかを決めたのだ。 もしもシンタローが仮想世界について強い拒否を示すような事があれば、渡すのを断念しようと思っていたらしい。
「……ありがとな。 大切に使う。」
 そっと紙袋を握りしめてシンタローは微笑んだ。 その顔にまた安心したような表情を浮かべたエギルとクラインは顔を見合わせて頷き合う。 そしてエギルは思い出したように口を開いた。
「あ、そうだシンタロー。 明日の午前8時にALO内で皆落ち合う話をしていたんだがそれまでにいろいろとALOに慣れておけよ。 まあ、キリトがサポートしてくれるんだから大丈夫だろうけどな。」
「……何かあるのか?」
「まあ、それはお楽しみだ。」
「分かった……」
 とりあえず納得した様子のシンタローは、用意されたお茶に口をつける。 隣に座る和人もまたお茶を飲んでその後、横を振り向いてシンタローに向かって注げる。
「あ、シンタロー。 帰ったら直ぐにログイン出来そうか?」
「大丈夫だと思うけど……」
「決まりだな。 ――その前に、シンタローはなんの種族を選ぶんだ?」
「……えっと、種族って何があるんだ?」
 そのシンタローの問に和人は手元にあるスマートフォンを操作し、素早く検索して手渡す。
「へぇ……結構色々あるんだな……。 まあ、でも……やっぱり殿の事を考えると……ケットシー……だよな。」
「やっぱりそうか。 だと思ってたよ。」
「あ、アヤノ達にはまだ内緒だぞ!」
「分かってるって。 じゃあ、ケットシー領まで迎えに行くよ。」
「あ、ありがとう。」
 初めてのALO、初めて見る景色はどんなものだろう。 きっと凄くきれいなのだろう、そんな幻想を抱きつつシンタローは紙袋を握りしめた。

 その夜、シンタローは初めてALOへとログインした。 和人に言ったとおり、ケットシーを選びひと通りの防具や武器を揃えた後ケットシー領の中央に位置する塔へと上がれば、お目当ての人物はその頂上に居た。
「き、キリト……か?」
「おっシンタローだな? 良かった会えるかどうか心配だったんだ。」
「待ったか?」
「いや、いま来たところだよ。」
 そう言ってキリトは笑う。 するとポケットからひょっこりと小さな少女が顔を覗かせた。
「お兄ちゃん!」
 その声色はとても懐かしく、体のサイズが違っても見間違えることはない懐かしい少女――ユイの姿がある。
「ユイっ!」
 思わず声を上げてその小さな少女を抱きしめてしまった。 幸い今ここには俺とキリト以外誰も居ないため、見られることはなかったがもしも誰かに見られていたらロリコンと言われてしまうところだった。
「会えて良かったです!!」
「俺も会えて良かったよ。 元気そうだなユイ。」
 まさかこのような形で、しかもこんなに早くに彼女と再会出来るとは思わなくて完全に意表を突かれた感じである。 してやったりというキリトの顔がとてつもなく腹立つが、そこはご愛嬌だ。
「さて、とりあえずALOでの戦闘に慣れていかないとな。 そんなに変わりは無いけど魔法とかいろいろあるし……そういや飛び方はわかるのか?」
「飛び方は大丈夫だ。 頭のなかに入っているし、これが初めて飛ぶってわけじゃない。」
「そう……か。 なら行こうか。」
「おう。」
 先行したキリトの後を追うようにシンタローもまた飛び立つ。 慣れたように飛び立ったシンタローにキリトは内心複雑ながらもそれを表に出すことはない。
「シンタローどれくらいスペル覚えられた?」
「ひと通り覚えてきたから後は本番でどれくらい使えるかだな。」
「相変わらず凄いな……」
 まだログインしてそんな時間は立っていないはずなのにもう全て覚えたというのだからさすがに驚くしか出来ない。
「まあ、記憶力はいいほうだからな。」
「あっそうだ。リズからお前にプレゼントがあるんだ。」
「……プレゼント?」
「そう。 これ。」
 ウインドウを操作して、取り出したのは剣だ。 この日の為にリズが素材を探しまわって作り出したシンタローのための武器。
「これを……俺に?」
「そうそう。 あとでリズにお礼言っておけよ。」
「分かった。」
 剣を受け取ったシンタローは今まで使っていた剣をしまい、リズからもらった剣を装備する。 試しに抜いてみれば驚くほど手に馴染んだその剣は振ってみればSAO内で使っていた《FlameDear》と同様とても使いやすいものだ。
「す、すげぇ……」
「気に入ったのなら良かったよ。 じゃあ急ごうぜ。」
「おう!」
 飛ぶ速度を早め、世界樹の方向へと一直線に飛ぶ。 話に聞けば、旧ALOでは飛ぶ時間に制限があったとかで何十分に一度下に降りなければいけなかったみたいだが、新ALOではその飛行時間制限が撤廃されて無限に飛べるようになったのだ。
「気持ちいな……」
「そうだなー。」
自分の羽で空を飛び、風をきる――この現実では味わえない快感がこのVRMMOの魅力だと思う。
「シンタローあそこの洞窟に入らないとアルンへいけないんだ。 だから一回おりるぞ。」
「お、おう!」
 暫く空の旅はお預けなのだろうということを理解して少し残念に思いながら下へ降りる。 目の前にそびえ立つ洞窟の入り口の暗さにビクつき、入ってその暗さに涙目になっていればキリトがそれに気づき安心させるように手を握ってくれた。
「大丈夫だよシンタロー。」
 そう言って、キリトは片手を上に掲げて口を開く。
「オース・ナウザン・ノート・ライサ・アウラ。」
 この魔法はスプリガンが使える暗視能力付加魔法で、使えば視界が明るくなる魔法だ。
「目を開けてみろよシンタロー。」
 恐る恐る瞳を開ければ、先ほどまで暗かった視界が桁違いに明るくなっていた。
「おお……明るい……」
「これで平気だろ?」
「おう。 ありがとう。」
 明るい視界に安心しながら、気を取り直して洞窟へと進んでいく。 途中出てきたモンスターを割りと余裕でボコりつつ、中立都市ルグルーで休憩をはさみ洞窟を抜ける。
「よし、ここまでくれば後は飛んで行くだけだ。 行くぞシンタロー。」
 そう笑いながら言うキリトにアルンという場所がどのような場所なのかを想像しながら飛べば、徐々にその姿をあらわす。 大きな世界樹の下に栄える街の幻想的な佇まいに目を輝かせながらその街に降り立つ。
「うわあ……すげえ……」
「もうすっかり夜になっちゃったな。 っていうことは現実ではもう朝か……」
「えっと……待ち合わせは8時だっけ? 何処にいけばいいんだ?」
「エギルが営んでいるお店がこの前にあるんだよ。 待ち合わせ場所はそこ。」
「へぇ……皆はもうそこにいるのか?」
「どうだろうな。 まあ言ってみようぜ。」
「おう。」
 シンタローは当然の事ながらエギルのお店の場所を知らないので、キリトの後を黙って付いて行く。 するとダイシーカフェと酷似した佇まいのお店の前でキリトは立ち止まった。
「ここだよ。」
 振り向いてニヤリと笑い、キリトは静かにドアを開けるとそこにはいろいろな人物が集まっていた。
「おっ来たな。」
「シンタロー! お耳かわいい!」
 そう言いつつ真っ先に抱きついてきたのはアヤノだ。
「アヤノ!?」
「ケットシー選んだんだね!!」
「お、おう……」
 恥ずかしいのか目を逸らしながら受け答えするシンタローの頬は赤く染まっている。
「へぇシンタロー君ケットシーなんだ……」
 ニヤニヤしつつしっぽをつかもうとしたカノに反射的にケリを食らわせれば、SAOのデータを引き継いだ力の所為で派手に吹っ飛ぶカノに辺りはシーンと静まり返ってそして一転して笑いに包まれる。
「す、凄くとんだね……」
「そうっすねーまあでもカノの自業自得っすね。」
 そうきらびやかな笑顔で言いのけるセトにマリーもきらびやかな笑顔で同調し、キドはそれに同意するように頷く。
「そうだな。自業自得だな。」
「……カノさん暫くお兄ちゃんに近づかないでください。」
 桃の絶対零度の微笑みにカノはビクついて、短く悲鳴を上げる。 するとももの隣に居たヒヨリがカノを鋭い眼光で貫きながら口を開いた。
「きっも。暫く私に話しかけないでください。」
 その言葉にヒヨリの隣に居たヒビヤは何も言わずに頷く。 そのリアクション達にカノは抗議するように声を上げた。
「み、みんな酷い!」
「退院したてのシンタロー君にセクハラしようとするカノ君が悪いと思うよ。」
「せ、セクハラじゃなくてただしっぽ掴んだらどうなるのかなーって思っただけだよ!」
「それがセクハラっていうのよ。」
 コノハもエネも笑顔でこう言うが、声色が穏やかなものではなかった。
 そのフルボッコ率にカノは土下座を決めて、口を開く。
「本当にすいませんでした。」
 その流れをメカクシ団以外のメンバーはポカーンとしながら見守っていたが、カノの土下座と謝罪の後一泊おいて笑い合う。
「さて、皆そろそろ時間だから行くぞ。」
 エギルがそう宣言すれば、シンタローを除いた全員が頷く。
「え? 時間?」
「ほら、シンタロー行くよー!」
「何処にだよ!」
「いけばわかるー!」
 アヤノに手を捕まれて言った先はアルンの上空。 すっかり暗くなったあるんの夜空で皆は同じ方向を向いていた。 その方向をシンタローも向くが、その方向には何もなく首を傾げる。
「シンタロー、ほら来るぞ!」
「え?」
 キリトが指さしたと同時に地鳴りのような音と共にそれは遥か上空からやってきた。
「あれは……」
 シンタローがそう呟いた次の瞬間、上空からやってきたそれはまばゆい光とともにあるんを照らしだす。
「浮遊城アインクラッドだよ。」
「……なんで」
「今度こそ100層までクリアしてあの城を征服するんだ。」
 そう言ってキリトはニヤリと笑うと、妹の方へと寄っていく。
「リーファ。 俺さ、ステータスリセットして弱っちくなっちゃったからさ、手伝ってくれよな。」
 そう言いながら、キリトはリーファの頭に手を載せる。 そんな二人の様子にシンタローは微笑みながら、アヤノの手を握った。
「アヤノ、この世界は綺麗だな。」
「そうでしょ? シンタローに見せたかったんだ!」
 ずっと暗い世界に居たシンタローだからこそ、この光景を魅せてあげたかった。 辛いことばかりじゃない世界なんだって、教えてあげたかった。
「アヤノ。」
 隣に居たシンタローがふとアヤノのを呼んでその声に従いアヤノはシンタローの方へと顔を向ければ、次の瞬間に重ねられた唇にアヤノは目を丸くして驚くばかり。
 周りがニヤニヤしながら見守る中、唇を離したシンタローは微笑んで口を開く。
「―――――。」
 その言葉にアヤノは涙を流しながら微笑みで答えを返す。
「行こう、シンタロー!」
「ああ!」
 これから始まる冒険に胸を馳せながら、そっと誰かの名前を呟いてシンタローは皆の後を追いかけては浮遊城アインクラッドへと意気揚々と飛び立っていった。

END
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