メカクシ団がALO入りする話【28】
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 それから数週間後、シンタローはついに退院することになった。 医者に挨拶した後久しぶりに出る病院の外に若干ワクワクしながら、入り口を出て行けばそこには見知った顔がズラリと並んでいた。
「シンタロー! 退院おめでとう!」
 声を揃えて皆にそう言われ、驚きのあまり固まる俺にアヤノと和人そしてアスナが駆け寄ってくる。
「シンタローさん久しぶりね! また一緒に料理したりしたいわ。」
 そう言ってアスナとの再会を喜びあった後、SAOサバイバーたちが次々に駆け寄ってきた。 エギル、クライン、リズ、シリカ――皆、和人経由で知り合った大切な友人たちだ。
 輪の中心でもみくちゃにされながら、それでも幸せそうに笑うシンタローにメカクシ団の皆は途方も無い安堵を覚えつつ、シンタローの人気におどろいていた。
「シンタロー君ってこんなに友人が居たんだね……」
 そんなカノの疑問に答えたのは貴音だった。
「皆シンタローに助けられたのよ。 アイツのあの頭の良さから導き出される最善策はいつも私達の命を救ってくれていたの。」
「前線で闘いながら敵の分析をして、頭の中で作戦考えているんだもんすごいよね……」
 感心したように遥が呟けば、彼がやったことの凄さに皆は絶句する。
「そういえば、殿ってやっぱりもう……」
 貴音が少し顔を曇らせながら、SAO内でシンタローが消えた時のあの寂しそうな声を思い出していた。
「……。」
 そんな貴音の言葉に遥は答えられない。 普通に考えればSAOはもう無いのだから殿はもう居ないのだろう。 でも、そんなの悲しすぎる。
「そんな顔すんなって。 ――きっと大丈夫だよ。」
 沈んだ表情をしている貴音と遥かに和人は近寄って微笑みかけた。 和人もまた殿の事を気にかけていたのだ。 
「ったくアンタのその自信はどっから出てくんのよ。」
「まあ貴音さん、キリト君ですから。」
 呆れた様子で呟く貴音に、慣れた様子でアスナが答える。
「アスナ、キリトじゃなくて和人だって。」
「あっごめんつい……。」
 口をつむぐアスナに一拍置いて笑いあい、もみくちゃにされているシンタローの方を見る。
 アスナもまたALOに囚われていたが、シンタローの苦しみに比べれば随分と優遇されていたと感じる。 真っ暗闇の世界にずっと居たなんて、普通の人なら狂ってしまう程の事なのに。
「元気そうでよかった。 また、会えて良かった。」
 そう噛みしめるようにアスナは呟いた。 それに同意しつつ和人は口を開く。
「シンタロー! 今日皆でオフ会やるってさー。」
「えっマジ!? 行くいく!」
 和人の方を振り返りながらシンタローはワクワクしながらそう答える。 やっと、病院の外へと出られた今やりたいことはいっぱいあるけど、やはりSAOサバイバーたちとの再会は特別な物がある。
 その後、俺と和人、そしてアスナ、アヤノを残し皆はオフ会の準備をするからとエギルの車に乗り込み去っていく。 残されたシンタローたちは時間まで暇すぎるのでとりあえず周辺をダブルデートしてみることにした。 しかし、シンタローが退院したてなので、なるべく歩きまわらないもの――そうカラオケに行くことになったのだ。
 約束の時間は午後の3時――そして今が午前10時。 歌うには十分すぎるほどに時間はある。
「カラオケかぁ。 ――でも、私最近の流行りとかしらないや。」
 このアヤノの言葉に全員が納得した所で、場所をカラオケボックスへと映したわけだが、案の定最近の流行りばかりでうめつくされているランキングをみて4人は疑問符を浮かべている。
「まあ、カラオケだし好きなもの歌おうよ。」
「そうね。 私SAOに入る前好きだったあの曲歌おうかな。」
「えっ何々?」
「これ。」
「あっこれ私も好きだった! 一緒に歌わない? これ二人用の曲だし。」
「そうね!」
 そんな女子二人の微笑ましい会話を横目に、和人とシンタローは明るいカラオケボックスの部屋の中で他愛もない話をしていた。 ――そう、SAOに居るときは出来なかった日常の話だ。 主にこれからどうなるのとか、俺は今後何になりたいんだとかそういった感じの話なのだが、和人に今後どうしたいのかと聞かれた俺は明確な答えが出せなかった。
「まあ、退院した直後だし気長に考えてみろよ。 自分のやりたい事。」
 話を聞けば、和人とアスナはリズやシリカ達と共に今後SAOサバイバー達が通う高校に一緒に通学するらしい。 そして、貴音と遥は大学へと共に進学することを決めたそうだ。
「大学……かあ。 とりあえず大学は行きてえよなあ。」
「やっぱ大学行くのか。 まあ、それがいいよな。」
「でも、大学で何学ぶかとかまだ曖昧。 そこら辺をちゃんと考えなくちゃな。」
 こうやって未来のことを考えられるだけ精神的余裕ができただけ進歩なのだろう。 ずっと生死のラインを行ったり来たりするような場所に居たせいか、こういう日常の何気ない会話というものは俺と和人の間ではもの凄く新鮮で、楽しい。
 高校生だった頃の学生生活でも得られなかったこの満足感――できればあの時の……”独りで生きていた俺”に味あわせてやりたいものだ。
 そう、家でも居場所が無くて学校でも存在価値を見いだせなくて消えてしまいたかったあの頃の自分に。 お前は近い将来、日常で友人が出来て、その後凄く辛い思いばかりをする世界に行く羽目になるが、その世界で本当の仲間に出会い、本当の友をしり、暗闇の恐ろしさを知って、そして一周回って日常の面白さに目覚めるのだ、と言ってあげたい。
 恋人が居て、家族が居て、そう今の俺はすごく幸せなんだ。 俺のことを本気で心配してくれる人があんなにも沢山いるなんて俺は知らなかったし、俺がSAOサバイバーたちを何人か救ったというその事実も今の今まで知らなかった……というよりも思い至らなかったという方が正しいだろう。 和人に言われるまで、俺はその事を必死に否定していた。
 確かに自分の行動によって救われた命が居たのだろう。 しかし、それと同時に救えなかった命がそこには存在した。 あと一歩の所で救えなかった命だってあったのだ。
 和人はポツリと、茅場晶彦から託された伝言を思い出して口を開く。
「なあ、シンタロー。 実はさ、俺お前をALO内で助けた後に茅場晶彦に会ったんだよ。」
「……そうなのか。」
「ああ、その時に色々話をしてさお前に伝言を頼まれた。」
「伝言……?」
「”すまなかった”だってよ。 あのお前を苦しめていた機械の元を茅場晶彦が作ったからなんだろうな。」
「あれ、茅場が作ったのか。 なんの目的で?」
「精神に深い傷を負った人物をナーヴギアと連携して使う治療器具――だってよ。 元々あの機械にあんなおぞましい機能なんてなかったんだ。 あれは全て須郷が独自に改造……いや、改悪したものだったんだよ。」
 和人の話を聞き、自分の中にある記憶を照らしあわせ、そうして導き出されたものは、須郷と茅場の決定的な違いだ。 茅場晶彦と須郷伸之は確かに許されない事をしたのだろう。 その点では両者とも反論の余地もなく有罪ではある。
 でも、茅場晶彦はプレイヤーとしてあのゲーム内で必死に生きていたのだ。 管理者権限なんて使わずに本人の力量だけで戦っていた。 そのゲームに対する二人の認識の違いが、決定的な茅場晶彦と須郷伸之の違いなのだ。
「そうか……」
 和人の話を聞いて、少し荷が降りたような気がした。 あの機械に苦しめられていたのは本当だが、でも、その元凶が須郷であったことに少なからず俺は安堵していたのだ。
「ほらほら、二人共そんな辛気臭い顔やめようよ! せっかくカラオケに来てるのに―。」
 歌の間奏中、マイクを通してアスナが言えば二人で顔を見合わせて笑う。
「ごめんごめん。」
 そのアスナの言葉に和人は苦笑いで謝罪すれば、間奏が終わりアスナとアヤノはまた歌い出す。
「なぁ、シンタロー。」
「なんだ?」
「まだ言ってなかったなぁって思ったから今言うよ。 ――お帰り。」
 その和人の言葉にシンタローは目を見開いてふっと笑い、口を開いた。
「ただいま。」
 その言葉は狭いカラオケボックスの室内に溶けて消えていった。
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