メカクシ団がALO入りする話【27】
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 それから二ヶ月が過ぎ、シンタローのリハビリも順調に進んで居た快晴のある日のこと。 精神科の先生といつものように暗所恐怖症の軽減のためにリハビリしていたシンタローは付き合ってくれていた和人からとある話を聞いた。
「シンタロー、アスナは今日退院だったんだよ。」
「……え? マジ?」
「マジ。 これで後はシンタローだけだな。」
「俺最後かよ……」
「仕方ないだろ。 ……まあでも、先生によればもう随分暗所恐怖症の方も良くなってきたって言ってたし、違う方のリハビリも走りさえしなければもうほぼ完了しているから近いうちにシンタローも退院出来るよ。 最近のお前、顔色もいいし。」
「そうか?」
「ああ、嘘なんてついてないよ。」
 その言葉にシンタローは微笑んで、そして何やら思案する。 そう、今日の今日まで会えていないアヤノ達のことだ。
「……和人。」
「どうした?」
「アヤノ達、呼んでくれるか? 今なら多分、平気だと想う。」
「そうか。 ――分かった。」
 いきなりの事だったが、和人は驚くような素振りもせず、シンタローの言葉を聞いて頷いた。 その後和人は一旦外に出てアヤノ達と連絡を取り合い、再び病室へと帰ってきた。
「皆今すぐ来るってさ。」
「……。」
 和人の言葉にシンタローは無表情で考えこんでしまった。 そんな様子の彼に和人は目線を合わせて口を開く。
「大丈夫か?」
「あ、ああ。 ちょっと、その……。 会って、何て言えばいいんだろうって……」
「別に考える必要ないだろ。 そのままのシンタローでいればいいんだよ。」
「そうは言ってもなぁ……」
 口を尖らせてベッドに倒れ込むシンタローの姿にため息を付きながら和人は時間を確認した。
「もうすぐ来るぞ?」
「えっ、えええ……まだ心の準備できてないって……」
「ヘタれんなよ……何のためにこの日まで伸ばしてきたんだ?」
「そうだけどー」
 こんな会話をしていると和人が年上に見えなくもないが、紛れも無くシンタローのほうが歳上である。しかも5歳近く年が離れているのだ。
「ったく、お前二十歳だろ……」
「うるせーこっちは目が覚めたら二十歳だったんだよ。 心は18歳だもん。」
 こう笑えない冗談を素で言うのだから和人はまた溜息を吐いた。
「……なぁ、シンタロー。」
「なんだ?」
「身を挺して俺を守るのはもうやめてくれ……頼むから……」
 もう2度もシンタローはゲーム内で和人を守っていた。 一度目はSAOの最後の最後――ヒースクリフ戦の時、そしてもう一度はALOで、彼がまだ操られていた時のことだった。 俺めがけて投げられた剣が俺に刺さる寸前にシンタローが庇ったのだ。
「半ば無意識なんだよ。 思考よりも先に体が動くっつーか……」
「もういやだ。 お前が、俺を庇って傷つく場面なんて、もう見たくないんだよ。」
 和人は声を若干震わせながら口にする。 シンタローはそんな和人に手を伸ばしかけ、そしてピタリとその手は止まり虚しく引っ込まれる。
「……ごめん。」
「シンタロー、俺にお前の背中を守るだけの力は無いのか?」
「そんなわけ無いだろ! ただ、俺はお前に酷いことしたから……だから、」
「酷いことって、なんだよ…… 酷いことしたのは俺の方だろ! あんな大衆の前でお前が茅場晶彦と通じてたんじゃないかって言ったんだから……!」
 そうだ、あの時酷いことをしたのはシンタローじゃない……俺だ。 今だからわかるけど、あの後シンタローが俯いていたのは動揺していたからなのだろう。 なのに俺はそれに気づかずに彼を追い詰めるような真似をしてしまった。
「謝るなら俺の方だ! お前が謝ることなんてなにもない!」
「違うんだ…… 確かに茅場晶彦に脅された時、ユニークスキル黙ってろって言われたけど……でも、その前から俺はお前ユニークスキルの事をお前に隠していたんだ……」
「……え?」
「何度も言おうと思った。 でも、いつもタイミング悪くて言いそびれていたんだ。 その矢先に茅場晶彦に呼び出しくらって脅されてからますます言えなくなった。」
「そうか……」
「ごめん。 ――本当は一番初めにお前に言うべきだったんだ。」
そう言いながら俯くシンタローに、和人は微笑んだ。
「もういいよ。 もう終わったことだし……それに、お前が生きていてくれた俺にはそれで十分だ。」
「……ありがとう。」
 和人の言葉にシンタローは表情を変え、微笑んで呟いた。 それから暫くして、病室の扉が静かにノックされる。
「どうぞ。」
 意を決しながらシンタローはそのノックに返事を返す。 すると、扉は静かに開かれ、その先にいたのは懐かしく、愛しい彼女と会いたくて堪らなかった友人達。 その顔を見れば、先ほどまで何を躊躇っていたのか忘れるほどに、安堵してしまった。
「……お、おに、お兄ちゃん!」
 今にも泣き出しそうな妹の顔も、もう泣いている愛しい彼女の事も、安堵しながら微笑みかけてくれる先輩たちのことも、そして一番後ろに居る俺の為に自らを削りながら言葉をくれた彼も、この2年余りの時をずっとずっと待っていてくれた彼らも、全てが愛おしく思える。
「久しぶり。」
 驚くほど素直に言葉が出てきた。 和人の言うとおり何も考える事なかったのかもしれない。
「ほら、桃此処病院だから余り騒がしくするなよ。」
「わ、わかってるもん!」
 そう言いながら涙を袖で拭う妹に思わず吹き出すと、当の本人はむすっとしてしまった。
「ほら、アヤノもそろそろ泣き止んでくれよ……まるで俺が泣かしたみたいだろ……」
「だ、だって……!」
 涙を拭うことも忘れ、シンタローが笑ったことに対して途方も無い安堵に包まれているアヤノに何もいうことが出来ずに苦笑する。
「シンタローさん……」
 戸惑いがちにシンタローの名前を呼んだのはセトだ。 絶望に苛まれた時、彼の声が一番に俺の希望となってくれたのを今でもはっきりと覚えてる。
「セト……ありがとな。 お前の言葉、本当に嬉しかったんだ。 消えちゃおうって、もう諦めてしまおうって思っていたのに、お前の言葉を聞いた瞬間今まで暗かった世界に明かりが灯った気さえした。 ……本当に、ありがとう。 ――――それと、ごめん。 知っているよ、お前があの後凄く苦しんだことも、全部。 ……本当にごめんな。」
 その言葉にセトは瞳を潤ませながら、それでも笑った。
 セトがあの時見た記憶。 姉の声で、ずっと自分を非難する言葉を耳に受けながら自分さえ曖昧になるほどの暗闇の中で、満足に動けずにずっとそこ居た彼はきっと凄く苦しんで死んでしまいたくなったのだろう。 消えたいって、諦めたいって思うのもきっと仕方のない事だった。 あの悪意の中ではきっと独りで足掻いてもそれは唯の悪足掻きにしかならなかったから。
 そんな絶望に沈む彼の心を自分の言葉で救い出せたとしたのならそれほど嬉しいことはない。
 だからこそ、俺はこうして元気になりつつある彼の前で泣き顔を見せたくなかった。
 もう十分弱音は吐いたし、泣いた。 元気づけてもらった。 だから今度は自分が彼を元気づける番だ。 だからこそ今は泣いてはいけない。 笑っていよう。
「もういいっすよ。 俺が勝手にしたことっす。 ――俺の言葉でシンタローさんが救われたのなら、ただそれだけで俺は満足っすよ。」
「そっか……ありがとう。」
 いろいろ抱えていたのも知っている。 きっと俺が知らない彼の苦悩もきっといっぱいあったのだろう。 俺のせいで色々苦しめたのに俺のために彼は笑ってくれていた。 そんな事実が途方もなく嬉しくて微笑みを零す。
「シンタロー君元気そうでよかったよ。」
 セトの笑った顔をみて安心したようにカノは一歩シンタローに近づいて言葉を掛ける。
「お前らのおかげだよ。 ありがとう、助けに来てくれて。」
 微笑みかけるその顔に、緊張していた様子の皆の顔は解れて笑顔になる。 その後、暫く他愛のない話で病室内は静かな盛り上がりを見せ、シンタローも終始笑顔で皆と会話していた。
「じゃあ、また明日くるねお兄ちゃん!」
 桃は久しぶりに凄く楽しそうな笑顔で病室を後にした。 残ったのはアヤノとシンタローだけだ。
「ねぇ、シンタロー。 大丈夫なの?」
「……大丈夫とはまだ言えないけどさ、でも――平気だ。 正直まだ夜は怖いんだけどな。」
「クロハから……聞いたの。 だから、私……会いにこないほうがいいのかなって……」
 私の声で苦しんだ。 クロハは私のせいじゃないって言っていたけど、でも、シンタローが私の声で作られたニセモノの言葉で苦しんだ事実は変わらない。 私が会いに行くことで閉じ込められていた時の記憶を思い出してシンタローが苦しむんじゃないかってずっとずっと不安だった。
「……違うんだ、そうじゃない。 確かに閉じ込められていた間ずっとアヤノの声で作られた偽物の言葉にずっと苦しんでいたけど、それは俺が偽物か本物かを判別出来なかったってだけで、アヤノが悪いんじゃないんだ。」
 そんな私の気持ちにシンタローは首を横に振りながら否定の言葉を口から零す。
「シンタロー……」
「正直俺も今日お前がくるって知って最初何て言おうって考えていた。 俺はお前の事を一度信じられなくなって、アヤノがこの言葉を言っているんだって思っちゃったから…… でも、アヤノの顔見たら全部忘れちまった。 アヤノの変わらない太陽のような笑顔が、凄く懐かしくて、閉じ込められていた時に聞こえたあの声は全部偽物だったんだって、ようやく実感できたんだ」
 そう微笑んで、私を安心させるように微笑みかける。 私は此処に来るまでずっと疑問に思っていたことを思い切って聞いてみることにした。
「私と話していて楽しい?」
「当たり前だろ。」
 間を開けずに私にそう言うシンタローは、嘘偽りのない顔で微笑んでくれる。 ずっとずっと不安だった心がそれだけで消えていくようだった。
「ねぇ、シンタロー。 久しぶりにキス、しよっか。」
 そう言って私はベッドに乗り上げ、シンタローの顔に口を近づけて彼の口に重ねる。 久しぶりに感じる互いの唇の感触はどこか懐かしく、自然と二人の手は絡まり合っていた。
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