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from:sato.
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君との距離縮まった? 蘭春 うたプリ

2013/10/12 12:46

「く、黒崎先輩!!」
「なんだ?」

私は今、黒崎先輩のお部屋で曲のチェックをしてもらっている最中です。
先輩は、さっきから大好きなロックを聴きながら仕事をなさっているようで
時々鼻歌を歌ったり、今日はいつもの返答よりも幾分か機嫌が良いように感じます。
ちらりと春歌が先輩の顔を盗み見ると、以前から比べれば今の先輩は軟らかい表情をしているように思う。
前には、とげとげとしていた口調がいつのまにか丸みを帯びた言葉へと変化していると感じるようになってきたのだ。
(これって、少し先輩と仲良くなれたと、うぬぼれていてもいいんでしょうか)
それは、恋のようなときめきではなく、春歌はただ純粋に先輩と歌や日常を通して、少し近づけてきたことが嬉しかったのだ。

「あの、ここの部分が上手くいかなくて…少し見てもらえないでしょうか」
そういって、春歌は持っていた楽譜を一枚差し出すと、「ん」と軽い返事をした後に、蘭丸の角ばった大きな手がすっとその楽譜に伸びる。
「ちょっと、貸して見ろ」
「あ」
乱雑にその楽譜を掴むと、蘭丸はテーブルに左肘をたて、手の甲の部分に自身の顔を乗せて、その楽譜をじいっと見た。
春歌はその様子を、地獄の沙汰を待つがごとく、そわそわと落ち着かない様子で窺う。
まだまだ春歌は先輩には駄目出しを多く受けるが、今は教えてくれる先輩が蘭丸であったことが、良かったと感じていた。
そう思うのも、蘭丸は最初こそやる気を見極めるがごとく酷い言動が多かったが、春歌が本気だと分かるときちんとそれ相応の対応をしてくれるのだ。
(きっと、先輩は根っからの真面目さんなんです)
本当は、その厳しい言動の中にも少しずつ蘭丸の優しさが見え隠れしていることを春歌は一緒にいて気づいていた。


「お前、ここの部分はイメージ的にどうしたいんだ?」

ふいに、蘭丸が自分の方を見たので、春歌はじっと見つめていた先輩の横顔からはっと慌てて目をそらし、目線を蘭丸の指す音符の部分へと目を向けた。
「えっと…ここの部分は曲調を盛り上がらせたいと思っているんですけど」

「だと、ぐんぐん持って行くメロディをそこにもっと持って行くべきだろ。そこは、お前の課題だから自分で考えろ。それとこの前の部分がごちゃごちゃすると主旋律のメロディが分かりにくくなるからシンプルにまとめろ。強調する部分は後ろの低音で重厚感を出して、エコーをかけるとか、な。ロックの場合はパーカスや楽器とかでアクセントを入れてもいい」
「はい」
「あと、ここの曲調もいずいから直せ」
「は、はい!」
先輩のアドバイスに耳を傾けながら春歌は熱心にメモを取る。
しかし、その彼女の手がはたっと止まった。蘭丸はその行動を訝しげに見る。
「ンだよ?」
「先輩、あの…“いずい”ってなんですか?」
その声に蘭丸がはっとした。そして、苦虫を噛みつぶしたかのように、歯切れが悪い答えを返した
「あー悪ぃ。…んーとな、なんつーか…その“居心地悪い”とか“しっくりこない”って意味だ。これだと分かるか?」
「ああ!分かりました!…先輩って確か出身が宮城県でしたよね?方言とかですか」
あんまり蘭丸が自分自身の事を話すことが見たことがなかった春歌は良い機会だから、これをきっかけにもっと仲良くなりたいと思ったのだ。
春歌がそう聞くと、蘭丸は観念したように話し出した。
「…あーそうだ。標準語でしゃべってると思ってても、つい出ちまうんだよな」
「地元でその言葉に慣れてると、東京に行ったとき方言出てるの分かりませんよね」
「前そのことで、嶺二にもレンと真斗にもびっくりされたことがあってな…」
と蘭丸はため息をつきながらぼやく。
蘭丸にとっては、ただの世間話だったのだ。けれどその言葉に、春歌が予想以上に食いついた。その目はきらきらとしていて興味津々であることが窺える。
「え、その話聞きたいです!」
「は?」
でも、ここで話も切るのもどうかと思うし、蘭丸はただの世間話の延長線上として、「つまんねー話だぞ」と前置きして話出した。
「嶺二のヤローは、確か結構前だったか?レコーディングが終わった後、一緒だったんだよ。その時に外に出ようとしたら雨が降りやがって『っち、いきなり晴れてたのに、降ってきたな』っていったら、『え、なに?ランラン、日本語おかしくなーい?』って言われて、『ああ?おかしくねーよ』っていったら、後で方言だったらしいことに気付いた。宮城では『いきなり晴れてる』っていうのは『とっても晴れてる』っつーのと同じなんだよ」
「へー!そうなんですか」
人の地域の方言を聴くのは面白い。なんというか、方言を話す先輩が可愛いというか新しい先輩が見られて新鮮というか。なにようにも言い難い高揚感がある。
「レンは、俺がゴミ箱にゴミが溜まってたから『ゴミ投げてこい』って言ったら、あいつ真剣な目で『らんちゃん……本当にいいの?』って言って、俺が『あ?いいって言ってんだろ』って話したら、レンがいきなりベランダから外にゴミ袋投げやがったんだよ!あれは『ゴミ捨ててこい』って意味だったんだけどな…」
神宮寺さんとの出来事は、どちらも身近な人との出来事だったので特に面白かった。

「ふふふ。私もそれは、言われたらビックリします。聖川さんとはなんだったんですか?」
「真斗は…あれだな。宮城では、同意の言葉として「だから」というのを会話の中に入れて話すことが多い。使い方としては、『ここのケーキうまいよな』『だからー(そうだな)』という感じだ。けど、これもあいつに通じなかったんだ。真斗が有名な菓子が手に入ったから差し入れくれたんだが、一緒に食べてる時、『む、この味…美味しいですね。生地の隠し味にはちみつとバニラビーンズを練りこんでいます』と真斗が言ったから同意の意味で『だから』と言ったんだ。けど真斗には「だから、それでどうしたんだ?」という意味に捉えたらしく、その後「すみません」とか「俺が悪かったです」とかって言って落ち込んでたな。なんというか、宮城の方言のは普通の『だから』とイントネーションが違うんだよ。なんつーの?少し語尾を伸ばす感じ。でも、あいつにも通じなかったんだ」
蘭丸はそこまで言うと、ため息をついて、がしがしと頭をかいた。
「結構気づかなくても、方言いってるもんだよなー。東京だと絆創膏っていうのも宮城じゃ『カットバン』っていうのが多いしな…まあ、絆創膏ってもいうけどよ」
「か、かっとばん?」
その後も二人で、方言や曲をあーだのこーだのと話し合っていると、気が付くと日が暮れ、空を薄暗い夕闇が覆っていた。

「まあ、今日はこれくらいにするか」
「はい、ありがとうございました。とっても勉強になりました、方言のお話もおもしろかったです。黒崎先輩」
春歌が玄関先でぺこりと頭を下げると、蘭丸は照れたようにふいっとそっぽを向いた。
「いいか次は、もっとまともなの作ってこいよ。またビシバシ添削してやるからな」
「わ、分かりました!頑張ります」
そういうと、蘭丸は春歌の頭にポンと手を置いた。
「じゃあな」
「おじゃましました」
ぱたんとドアが閉められると、春歌は両手で頬をばっと覆った。
さっきの場面が頭の中で再生される。
最後、蘭丸が春歌の頭にポンと手を置いた瞬間、ふっと蘭丸が笑ったのが見えたのだ。
(はじめて、見ました!)
なんか、気持ちがぽわぽわとする。
例えるならあれだ。いつもつんっとしていた猫が、初めて甘えてきてくれたときのうれしさにちょっと似ている。
(ちょっと嬉しい…いや!ちょっとじゃなくて、すごく!!)

春歌は、にやける気持ちをそっと押さえて歩き出した。
これを機会にもっと、打ち解けられたらいい。
そんな思いを胸に抱きながら。



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