それだけが私の誇り | ナノ



※自殺ネタ



世界は私にとってどこまでも優しくなんてなかった。生きてればいいことがあるなんて言葉、信じてたけれど結局そんなもの何もなかった。楽観的な気持ちで慰めの言葉なんてもらっても、本当に辛い世界に存在している私にとってはゴミみたいなもの。手足を動かして叫んでも何も見えない何も分からないようなどこまでも暗い世界なんていらない。私も必要とされていない。私の両親は私を見てはくれない。どれだけ頑張っても、努力しても、両親の瞳にはお互いが映るだけで私なんていないものだった。いらないものだった。学校へ行っても人からは嫌われた。ちょっと賢くて可愛いからって調子にのってるよね、なんて言われた。いじめとかじゃなくて、存在しないかのように扱われた。死にたかった。


そして私は今誰もいない屋上で、フェンスを乗り越えたところに立っている。これから何をするのかなんてとっくに分かりきってる。後はフェンスを掴む手を離して空へ歩くだけでいい。それだけで私の苦しみは終わるのだ。私はずっと、この澄み渡る空になりたかった。だから死ぬときは空に落ちることを選んだのだ。


不意に後ろでガチャリと屋上の扉が開く音がした。ふり返ってみると、多分同じクラスの基山くんがびっくりした顔でこっちを見ていた。基山くんは、唯一私に優しくしてくれた人だった気がする。今はどうでもいい。だって私は今からいなくなるから。基山くんは私の方へゆっくり歩いてきた。でも基山くんは私を止めることはしないだろう。基山くんは優しくて残酷な人だから。


「君は今から飛ぶの?」
「そうだよ」
「そうなんだ・・・・・・・僕も逃げたいよ・・・」
「逃げたい?基山くんが?」
「生きてるのは辛いから」
「ふーん、そうなんだ」
「でも僕にはそれをする決心なんてないんだ。僕は色んなものに縛られてるから。君には、何もないの?気掛かりとか、したかったこととか」
「何もないよ。私は誰かに愛されたかった、でもそんなの本当は望んじゃダメだったんだ」
「何も、ないんだ」
「・・・・・・誇りならひとつだけあるかもしれない」
「何?」
「優しい基山くんのいる世界で、呼吸をしていたということ。もうすぐ呼吸なんて止まっちゃうけどね」
「そう・・・なんだ・・・・・・」
「私、もう行くね」



さようなら、その言葉と一緒に私の身体は空に落ちた。最期に見えたのは酷く泣きそうな基山くんの表情と哀しいくらいに澄んだ青い空で、私は何故だか胸がちくりとして泣きそうになったから、落ちる感触を感じながらそっと目を瞑った。




0823 基山

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