魔法のトゥシューズで駆け出した日曜日 | ナノ



はぁ、と吐いた溜息は気怠い休日の空気と混じりあって消滅。正しくは消えてなんかないけれど、なんて考えてもとりあえず退屈な私にとっては些細な暇潰しにしかならない。確かに休みというものは気が楽だけれども、何の予定も入っていない女の子には少々キツいものがある。そこはかとなく気怠く、無駄な時間を過ごしていると感じてしまうのだ。それが幸せだと言う人も居るけれど、こんなのが幸せなら私は幸せになんかなれなくてもいいかもなぁ、と思う。こういう普通に過ごせる事自体が幸せだとか、戦争をしている国の子供を引き合いに出されて例えられたとしても実感なんて湧かない。だって、次元が違いすぎる。私は当たり前だけど戦争になんか関わったことがないし、私のちっぽけな脳みそで考えたって想像なんて出来る筈もない。この当たり前こそが大人が言う幸せなんだなぁ。・・・なんか気分が暗くなっちゃった。私は少しだけ暗くなった気分を明るくする為に、テレビのリモコンのボタンをぽちりと押す。広がったテレビの向こう側の世界はやっぱりつまらなかった。もう一度溜息を吐いて、どうしてこんなに憂鬱な休日なんだろうかと考え始めた私の思考の邪魔をするように、呑気なインターホンの音が響いた。色んな理由で家族が皆出払っているので必然的に私が扉を開けなければならない。重い腰を浮かせて玄関の扉を開くとそこには一之瀬がいた。え、どうして?

「どうしたの?」
「君ってば何回電話しても出ないんだもん。だから来ちゃった」

一之瀬は休日だというのに相変わらずキラキラとした笑顔でそう言った。あ、私ってば携帯をマナーモードにしたまま放ってたんだ。ごめんねと謝ると一之瀬は全然いいよと言ってくれた。やっぱり一之瀬は優しいなぁ。

「とりあえず入りなよ」
「いいの?」
「うん、私だけしか居ないし」
「そうなんだ。じゃあ、お邪魔します」
「どうぞ」

一之瀬をリビングにご招待してから私はお茶を煎れる為にぱたぱたとリビングの隣のキッチンへ向かう。キッチンからはリビングが見えるようになっていて、キョロキョロと部屋を見回している一之瀬がよく見えた。何だかすごく可愛らしいなぁ、と思いながらお茶を持ってリビングへ戻る。

「粗茶ですがどうぞ」
「あっ、ありがとう」
「ううん、気にしないで。それよりどうしたの?」
「実はね、君に頼み事があるんだ」
「頼み事?」
「そう、頼み事」
「頼み事ってなぁに?」
「俺、アメリカに行くんだ」

私はその言葉にびっくりして、お茶が入ったコップを落としそうになる。一之瀬がアメリカへ行く?まさか、そんな。

「本当に?」
「あぁ。俺、FFIのアメリカ代表に選ばれたんだ」
「す、すごい・・・」

そうか、一之瀬はアメリカへ行ってしまうんだ。私の手なんて全く届かない所に。そう考えると胸がとても痛くなった。頑張ってね、そう笑顔で言うけれど一之瀬は浮かない顔をしている。

「君は、俺が居なくなっても寂しくないの?」
「え?」
「俺は君と離れるのがすごく寂しいよ」
「一之瀬・・・」
「だからね、頼み事があるんだ」
「何?」
「俺がアメリカに行ったら、たまにでいいから電話してほしいんだ」
「それだけでいいの?」
「あぁ」
「分かった。毎日電話するね」

一之瀬はさっきまでの浮かない顔じゃなくて、キラキラしたいつもの笑顔で私にありがとうと言った。それだけで私の胸はどうしようもなく暖かくなるんだ。

「もう一つあるんだけど、いい?」
「いいよ、私に出来ることならなんでも言って」
「俺と付き合って」
「え?」

一之瀬の言葉に私はキョトンとする。え、付き合うって、えぇ?

「私?」
「うん、君」
「な、何で?」
「何でって、好きだからに決まってるじゃないか」

それに俺がアメリカに居る間に横取りされたら嫌だしね、なんてまた素敵な笑顔で言い放つものだから、私の顔は多分まっかっかになってるだろう。返事なんか、もちろんいいに決まってる。こくりと頷くと一之瀬は私をぎゅうと抱きしめて大好きだよ、なんて言った。今までの私と一之瀬の関係から新しい関係に駆け出した、そんな私の幸せな日曜日



魔法のトゥシューズで駆け出した日曜日


1119 一之瀬
 企画くちびるに魔法に提出

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