その手をとってしまおうか | ナノ



ぶわりと紫煙を吹き掛けられて私が顔を歪めると奴は妖しく、そして楽しそうにその唇で三日月を描いた。悪趣味、そう呟くと奴は、結構な褒め言葉じゃねぇかァと喉を鳴らしてまた笑った。きつい煙の匂いに頭がくらくらする。私は惑わされないようにそっと刀に手を置いた。奴は、晋助は変わってしまった。歪んでしまった。私を見る真っ直ぐな目はもう何処にもなくて、ただただ私を、世界を、全てを嘲るように細められる獣のような目がじいっと私を見つめている。私が刀に手をかけているというのに晋助はぴくりとも動かない。薄気味悪い笑みを浮かべたままこちらを見るばかりだ。

「・・・早く私を船から降ろしてよ。捕まえて無理矢理船に乗せといて、なのに身体を自由なままにしてるなんて一体どういうつもり?」
「別に大したことじゃねェよ」
「なら早く私を船から降ろして。真選組の皆が待ってるのよ」

晋助は真選組という単語にぴくりと眉をひそめてこちらを見た。私も目を逸らさずに奴を見つめて、そして不意に奴の唇が動く。

「お前も変わっちまったなァ・・・」
「どこがよ?」
「幕府の犬なんかして、楽しいかァ?」
「・・・・」
「松陽先生を殺した世界を守って、てめェは楽しいのかよ?」
「・・・・あんたには関係ないでしょ」

私はあの戦争が終わった後、近藤さんに拾われた。こんなボロボロのガキを、妹のように可愛がってくれた。幸せだった。でも、攘夷浪士を切る度に心が痛むんだ。すごく胸が苦しくなって、すごく泣きたくなる。涙を流したくなくて空を見上げても、あの頃みたいに綺麗な青空なんてどこにもなくて、ただ異国の船が我が物顔であんなに綺麗だった空を汚しているのが見えるだけだった。それでも恩を返したくて、でも現実を見たくなくて、私は目を瞑ったままただただ刀を振るっていた。私に出来ることなんてそれだけだったから。私の存在価値は、戦うことだけだから。

「・・・関係あるから言ってんだよ」
「・・・・何が、関係あるのよ」
「お前は戦うしか出来ねぇじゃねェか」
「だから、何」
「お前の目は俺の目と似てる」
「・・・やめて」
「戦うことしか出来なくて、でも死にたくなんかなくて、ただがむしゃらに刀を振るう獣の目だ」
「・・・・」
「だからこそ言うんじゃねぇか、お前は真選組なんかに居るべきじゃねぇってな」
「・・・晋助」
「俺と共に、こんな腐った世界をブチ壊しちまおうじゃねェか」

晋助と、共に。悪意なんてどこにもない、私に向けられたただ純粋なだけの言葉。こいつは昔からそうだった。実は一番に私達のことを考えてくれる。そういうところは変わってないのか。

「・・・相変わらずだね、晋助」
「・・・・・うるせェ」
「でも、近藤さんが」
「お前はどうしたいんだよ」
「・・・え?」
「てめェはどうしたいんだって聞いてんだよ」
「私、は」
「俺にはお前が必要だ」

お前はどうなんだよ?晋助が静かに問う。昔と変わらずに私のことを心配してくれる晋助。確かに表面的には変わってしまったかもしれない。歪んでしまったかもしれない。けどそれは私も同じだったみたい。心までは歪んでなんてなかった。晋助が私を必要としている。ならば、




1118 高杉

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