彼女はきっと魔法を使う | ナノ



どうして、どうして。頭の中では何度も何度もそればかりがぐるぐる回って泡のように消えていく。その他には何も思い浮かぶことはなく、どうして、ただそれだけ。父さんは言った。僕達を宇宙人に仕立てあげて、地球を侵略すると。僕はもう一度、もう一度だけ考え直してください。何度も何度も叫んだ。だけど父さんは首を横に振るばかりだった。僕は大好きな父さんの期待とか皆からの羨みの目とか、色んなものに板挟みになって、だからある日、僕は僕を殺そうと思った。僕の心を。そうすればこの苦しみから逃れられる。

そんな時に僕に話し掛けてきたのが彼女だった。やつれてボロボロになって、たった一人で座る僕に手を差し延べてくれた唯一の人。僕は他の人間が信じられなかった。僕が父さんに可愛がられていたから。みんなは僕を羨みの目で見て、酷いことをたくさんした。本当に愛されていたのは僕じゃないのに。僕はひたすら耐えるしかなかった。そんな僕が彼女を信じられるはずがなかった。僕は彼女の手を強く叩き落とすと、彼女は一瞬驚いた顔をしたけれど、彼女は微笑んでこう言った。ヒロトくんは何も悪くないよ、だから苦しむ必要なんてないんだよ。それを聞いた僕の目からは何故だかぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。彼女は僕を抱きしめた。彼女の体は同い年とは思えないくらいに華奢で、だけど温かくて、僕はずっと抱きしめていたいと思った。僕は彼女のたった一言で救われた。馬鹿みたいだなんて思うかもしれないけど、まるで魔法だなんて思った。


その日からは彼女が僕の光だった。それは今でもそうだ。僕も彼女も、今はエイリア学園じゃなくてイナズマジャパンのメンバーとしてサッカーを楽しんでいる。だけど楽しい中には苦しいこともいっぱいあって、チームのみんなの役に立てなかったりしたとき僕は落ち込んでしまう。折角円堂くんにサッカーの楽しさを思い出させて貰ったのに、恩返しをしたいのに。それができないことにもどかしさを感じて落ち込んでしまうのだ。そんなときいつも彼女はひょっこり現れてあの微笑みで言うのだ。大丈夫、ヒロトなら大丈夫だよ。それを聞くと何だか気分がふっと軽くなる。そしてきまって彼女は僕を抱きしめるのだ。彼女にかけられる言葉は全部僕を救ってくれて、やっぱり僕は魔法みたいだなんて思ってしまうのだ。




0816 基山

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