優しく食べてあげる | ナノ



彼女の涙は宝石のように綺麗だと思った。きらきらしていてとても美しいもの。ゆらゆらと揺れる彼女の、その深い悲しみをはらんだ瞳は僕を映しているようで映していない。彼女がまばたきをする度にしとと濡れた睫毛も揺れる。僕はそれをただただ喜びの目で見ている。伏し目がちなその姿は僕の望んでいた彼女の姿だった。彼女は恋を失った、ようするに失恋したのだ。初恋は叶わないなんて言葉、誰が考えたのだろう。まさしく今の彼女の姿は"初恋が叶わなかった可哀相な女の子"というものだ。見ていてどこかこころの痛むような、そんなかんじ。とにかく今の彼女の絶望につけ込めば僕にだって入る隙間くらいはあるはずだ。彼女があいつを愛しているように、僕も彼女を愛しているから。だから僕はそこにつけ込む。それでしか彼女の瞳に映らないから。なんだかんだ言ったって結局僕も彼女も可哀相な人間のうちの一人にすぎないのだ。ならば、彼女の初めての恋心が熟れて落ちてしまう前に、僕がそれをぺろりと食べてしまえばいい。そうすれば彼女がこころを痛めることもないし、僕の臆病でちっぽけなこころも痛まないから。所詮僕らは同じ穴の貉、要するに同類。僕らは穴から出て綺麗な太陽を望む蚯蚓に過ぎない。ないものねだりの馬鹿な人間。だからせめて、彼女のこころをたべるときは優しく優しく食べてあげようと思う。それが非情な僕の唯一の優しさかもしれない。


優しく食べてあげる

(馬鹿な僕から彼女への)(せめてもの慈悲って、ね)



0124 吹雪
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