水没少女 | ナノ


≠月子



月子ちゃんと宮地くんが付き合い始めた。美男美女カップルとはこのことか、と思いながら月子ちゃんと週末デートの約束をしている宮地くんを眺める。私は宮地くんが好きだった。宮地くんは明らかに月子ちゃんが好きで、唯一の女友達の月子ちゃんはよく嬉しそうに宮地くんについて話をしてくれた。ようするに私が入り込む隙なんて全くなかったのだ。私は諦めたつもりだった。けれど付き合い始めると二人で居るのをよく見かけて、月子ちゃんの前だけで見せる宮地くんの綻んだ笑顔をみるたびに私は自分の胸がチクリ、と痛むのを感じる。やっぱり心の中では諦めきれずにいる私のどうにもならない恋心はずるずると私の弓道にまで付き纏ってきた。どうしても的にあたらない。それを見かねた優しい誉先輩は理由を私から話してはいないものの、きっと気付いてくれている。だから私をよく、星を見に外へ連れ出してくれる。そんな優しさにどれだけ救われただろう。でもやっぱり現状は変わるわけでもなく、私はまだ矢を的に当てられずにいた。ほんと嫌になる。






先輩の様子が最近おかしい。あんなに綺麗な射形を描いて矢を皆中させていたはずなのに、最近は的にすら当たっていない。どうしたのか、と考えるまでもなく原因は夜久先輩と、先輩が好きだった宮地先輩が付き合い出したことだろう。先輩はよく辛そうな顔をして二人が楽しげに話すのを眺めていた。僕はそんな先輩を見て心が痛んだ。僕は先輩が好きだ。何にも執着したことがない僕が、唯一執着してるのが先輩。だから、僕は先輩に悪いと思いながらも夜久先輩と宮地先輩が付き合ってどこかほっとしていた。けれどその二人を見て辛い顔をする先輩を見る度に、こんな醜い感情で先輩に接している自分が嫌になる。今だって、横に居るのは僕なのに楽しそうに週末のデートの予定を立てている二人を見て泣きそうな顔をしている。僕は見てられなくなって、先輩の細い手をとって屋上庭園へ歩きだした。



屋上庭園に着くと、そこは暑いからか人がまばらだった。とりあえず先輩と一緒に隅にあるベンチへ腰をかける。

「梓くん、どうしたの?」
「先輩、僕じゃダメなんですか?」

そういうと先輩は言葉の意味をすぐに理解したのか、その綺麗な瞳を揺らした。


「僕は、宮地先輩じゃないけど、先輩を愛すことならできます。お願いですから、そんな悲しい顔をしないでください。」
「梓くん、」
「ダメでも、せめて話ぐらいなら聞いてあげられます」


震える手をそっと握って、ゆらゆら揺れる先輩の瞳を見つめて言う。先輩の瞳から涙がこぼれ落ちた。先輩は微笑んでありがとう梓くん、と言った。やっぱり僕じゃダメなんですね。先輩がはらはらと落とす涙を見て思った。


「あ、ずさ」
「先輩、黙って抱きしめられて下さい」

先輩を抱きしめるとすっぽりと僕の腕に収まる。静かに泣き続ける先輩の背中をリズムよくたたいていると、何故だか分からないけど僕も泣きたくなった。






(絶望の海に沈んだ彼女を)
(引き上げるのが僕の腕であることを望む)





1024 木ノ瀬

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -