てのひらに隠した呪文 | ナノ



イギリスの町並みは真夜中でもどこか華やかだった。日本のような騒がしいイメージのある華やかさではなく、上品で物静かな華やかさがイギリスにはあるのだと思う。それはイギリス人にも言えることで、エドガーなんかはまさにその象徴のような人だった。ふわりと外国特有の香りが鼻を掠めた。どうしてか急に散歩をしようだなんて思い付いた私が上着なんて持っているはずもなく、少しだけ冷たい風が頬を撫でる。エドガーに一言声をかけた方が良かったかもしれないだなんて頭の隅で思いながら空を仰ぐ。空には星はあまり見られなくて、少しだけ見える星を辿ろうだとかそんなことを考えながら私が足を進めるのとほぼ同時に誰かが私の左手を掴んだ。


「・・・・・エドガー」
「こんな遅くに何をしているのですか」
「別に、ちょっと散歩」
「女性一人では危険です」
「自分の身くらいは守れるわ」
「それでも心配です」

エドガーは額にうっすらと汗をかいていて、恐らく走って私を探してくれたのだと見てとれた。勝手に居なくならないで下さい、とエドガーが小さく零した。

「エドガー、」
「何かあったんですか?私に何も言わないで急に一人で散歩をするなんて、あなたらしくない」
「別になにもないよ」
「そう、ですか」
「ただ何だか少しだけ、寂しくなったの。だから星を見ようと思って」
「寂しいのですか?」
「ううん、もう寂しくないよ、エドガーが来てくれたから」
「本当に心配しました」
「心配してくれたの?」
「ええ、心配しました」

あなたには私が居ます。一人じゃないのですから思う存分私に頼って下さい、とエドガーは言った。エドガーはその綺麗な青い瞳に私を映して、私の手をぎゅっと握る。エドガーのどちらかと言えば冷たい手で手を握られると、不思議と安心してしまう自分がいる。私の中でエドガーが特別な存在だからだろう。これからは寂しくなったらエドガーと一緒に散歩をしよう。そう思う私は彼のてのひらの中の、魔法の呪文にかかってしまったみたいだ。私はもう、きっと彼なしでは生きていけないんだろう。それはそれで幸せだなんて思った。




0830 エドガー

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