いとしいとしとおもふこころ | ナノ


私ってば最近へんなゆめを見るの。何故だか分からないけど、きらきらゆらゆら目の前で揺らめくそれを捕まえたくて私はそっと手を伸ばす。だけど捕まえられない。私の指先はそのサラリと揺れるきらきらした金色の絹のような糸を掠めるばかりでどうしようもなく泣きたくなる。そこでその奇妙な夢は終了。後に残ってるのは悲しいきもちだけ。ねぇ、どうして捕まえられないの?

「ンなこと聞かれてもなァ」
「どうしたら捕まえられると思う?」
「なまえがそのみっじかい腕どうにか伸ばしたらえぇ話とちゃう?」
「平子死ね!!」
「ヘぶッ!!!」

平子の腹立つくらいに綺麗に整った顔にそこに落ちていたリサのエロ本を叩きつけてやる。まったく、人が真剣に話してるのにこの男は!!もういい、平子には絶対相談なんかしないんだから。そう誓った私はすらりとした指で少し赤くなった鼻を撫でている平子を放って、ソファに座っているひよ里に向かってダイブした。

「ひよ里ー!!」
「うっわ、いきなり何やねん!!」
「ちょ、ひよ里避けるとかヒドい!!」
「いきなり飛び込んでこられたら誰でも避けるわアホ」
「アホって言わないでよ自覚してるんだから!!」
「ハイハイ、んで今日は何や?またあのハゲに何かされたんか?」
「あのバカ平子私の話全く聞いてくれない!!」
「どんな話なんや?」

何だかんだいってちゃんと私の話を聞いてくれるひよ里は見た目はかなり乱暴そうだけど、中身はちゃんと可愛くて優しい女の子なのだ。ひよ里はあのバカみたいにならないでね、そういう意味を込めた視線をひよ里に向けると何やコイツという顔をされた。地味に傷付く。とりあえずひよ里に話を聞いてもらうことにする。

「・・・という訳なの」
「ふんふん」
「で、どうしたらそのきらきらを掴めるのかしらということです」
「そやなァ、とりあえずあのハゲの髪の毛でもむしり取ってみたらえぇんとちゃう?」
「えぇぇ!!!何で!!」
「んー、よぉ夢は深層心理表しとるゆーやん?」
「え、何ソレ」
「まぁゆーんや、黙って聞いとれやアホ」
「はい、すいませんでした」
「でや、なまえの周りで金色のきらきら揺れる糸みたいなモンゆーたらハゲの毛しかないってことや」
「・・・それが何で深層心理と関係あるんですかひよ里サン」
「なまえはハゲのこと好きなんちゃうんかって話や!!」
「えぇえ!!それ絶対ないでしょ!!!」
「あるかもしれんやろがアホ!!!」
「またアホって言った!!!!」
「お前らちったァ静かにせぇやー」

どや顔のひよ里とぎゃんぎゃん言い合っていると、この場の原因である妙に間延びのした男の声が聞こえた。ギギギ、と音がしそうな動作で首を動かすとそこにはひら、こ、が・・・・・

「ぎゃー!!」
「なんやなまえはいっつもうっさいなァ」
「ひひひひひらこ、なんでここに・・・!!!」
「いやァ、何かなまえが俺のこと好きらしいみたいな会話が聞こえてきてなァ」
「そ、んなことないもん!!!」
「なまえ、顔ごっつ赤いで」
「ひよ里!!余計なこと言わないで!!!」

平子がずいっと顔を近付けてくる度に一歩下がる。一歩近寄られれば一歩下がる、そうして私の背中にはいつの間にかひんやり冷たい壁。私の顔のすぐ近くにはニヤニヤした平子の顔があって、その後ろでひよ里がニヤニヤしてた。

「ひよ里、たすけて・・・」
「ちょおウチ白んトコ行ってくるわ」
「ひよりぃい!!!!」
「もう逃げ場ないなァ」

どこかへ消える小さな背中にちらりと一瞥をくれてからまたニヤニヤとした顔を近付けてくる平子を睨みつければおーこわっ、なんておどけた調子で言う。平子のバカヤロー!!ド変態!!!

「なまえチャンはそないに俺のこと好きなん?」
「ち、ちがいますー!!!」
「じゃあ何でそない顔赤くしとるんですかー?」
「赤面症なのっ!!」
「ほォー、なまえとはずーっと一緒に居ったんやけどそれは知らんかったわ」
「うっさいハゲ!!」
「誰がハゲやと!?そないなこと言う奴にはこうじゃ!!」

そう言って平子は私の体を抱きしめた。平子って見た目の割にはがっしりとしてるし、安心できるいい匂いがするなぁ・・・・・って違う!!私何考えてるの!!!あたふたとする私を感じ取ったのか平子はクツクツと笑う。笑う度に揺れる平子のきらきらの髪がわたしの頬をくすぐる。あ、これ・・・・・そのきらきらを手に取ってみて私は確信する。

「掴めた・・・・」
「何がや?」
「夢の中のきらきら、ここにあったの」

嬉しくなった私はぎゅうと平子の背中に腕を回す。平子の体はほんの一瞬だけびくりと動いたけれど、平子の腕が私を離すことはなかった。どくどくどくどく、平子の心臓の音を聞くと何故だか安心する。なまえ、平子の声に名前を呼ばれて顔を上げるとくっつきそうな位置に平子の顔があってビックリした。私、平子と抱きしめあっているんだ。そんなことを考えていたら平子の薄い唇が私の唇を塞いだ。ほんの一瞬の出来事。離れた唇によって自由になった私の唇は小さく震えている。

「ひひひひひらこ!?」
「何や」
「なん、で、いま、キ・・・!!!」
「ハイハイちったァ落ち着きィ。ほら、すーはーすーはー」
「すーはーすーはー・・・」
「どや」
「お、落ち着かない・・・」

平子のせいなんだから、そう言うとそりゃあ良かったわとニヤニヤ笑う平子の髪がきらきら光る。やっと掴めたきらきらの素敵なもの、あなたのことだったのね。ひよ里が言ってたことあながち間違いじゃなかったんだ。私はきらきらのものだとか何故だか分からないけど平子を愛しいと思った私の心だとか、全部引っくるめてもう一度平子を抱きしめた。



0106 平子


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