夕方の6時になると鴇は合鍵を使ってひょっこりと現れる。パソコンで仕事する俺とは真逆に、バリバリの営業マンというスーツを着ている鴇は俺の凝り固まった肩を叩き、俺が振り向くとにかっと笑う。「ご飯の時間だよー」

 データを保存し、スエットのままスーパーに行く。こんな格好の俺の隣には上着を脱いだとはいえ、スーツ姿の鴇という、なんともアンバランス。いや、いやいやでも今日の格好はあれだ、締め切り前で着替える暇がないだけで。ぶつぶつと呟く俺に、鴇は今日はシチューが食べたいと言った。だから、なんでお前はいっつも締め切り前に手の込んだやつを頼むんだよ。

 割り勘で買った材料をキッチンに置き、鴇は袖を捲り、俺が言う前にじゃが芋などの皮を剥く。昔はこんな手伝いすらなかったのだが、やっぱ鴇も成長したもんだと感慨深くなる。て、俺は親か。
「おい鴇、皮剥くなら玉ねぎもやれよ」
「えー」
 そんなふうに悪態を吐きつつ、鴇の手は玉ねぎに伸びる。うん、成長成長。ただ、まだどこまで剥けばいいかはわかってないだろうから、まだ俺が見なきゃいけないが。隣でベリベリと玉ねぎの皮を剥く音がする。生活の音がする。
「なんか、恋人みたいだよね。俺と篠ノ女」
 だん、と皮を剥かれたじゃが芋を切りすぎる。しょうがない。なんてたって鴇があまりにも突拍子がなくて、そしてあまりにも寒いことだからだ。涙が出る。鴇も泣いている。絶対玉ねぎのせいだ。あー、彼女ほしい。



(涙)
/寂しいふたり
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