なんの前触れもなく、包帯越しに緑間の左手が高尾の目の下を撫でた。高尾はいつも綺麗なシュートが放たれる手が自分に触れていることに言い様のない歓喜を覚えたが、緑間がなにやら真剣に自分の目の下を撫でているものだから、叫ぶのは止めた。代わりに、いつものようにどうしたの、とお茶らけたように言う。すると、緑間はあっさりと手を離した。名残惜しい。
 高尾の目の下から手を離し、緑間は今度は左手をじっと眺めていた。そんな緑間を眺め、もしかしたら爪の研ぎ具合が悪いのだろうか、と不安になった。つい、と緑間の目玉が高尾を映す。
「お前の見る世界とは、どんなものなんだろうな」
 高尾は緑間が先ほどまで撫でていた目の下に触れた。この皮膚の下には、目玉がある。指の腹にごろごろとした玉の動きが伝わる。緑間は、この目が欲しいのだろうか。
「なぁ、緑間。緑間には今何が見える?」
「高尾」
「うん。俺も、緑間が見えるよ」
 緑間は首を傾げる。意味がわからない。すると、高尾はにひひ、と笑う。
「それでいいじゃん。真ちゃんは、自分が見てる世界だけ気にしてたらいーの」
 端から聞けば、高尾は緑間を孤立させようとしているように聞こえる。しかし緑間は、なんとなく高尾の言いたいことがわかったので、そうだなとだけ言って高尾の目について考えなくなった。
 そんな緑間を見ながら、高尾は胸を撫で下ろす。もう少しで、緑間に他の世界はどういうふうに見えるのかを伝える自分が消えるところだった。高尾が緑間の傍にいる理由がなくなるところだった。危ない危ない。



身の程をよく咀嚼しろ
お題>女顔
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