早弁をしてしまったせいでお昼がない火神を見かねて、水戸部が自分の弁当を半分ほど火神にあげた。火神をはじめ、その場にいた全員がいいのかと水戸部に訊ねた。当然だ。いくら大食いではないとはいえ、朝から練習をし、放課後にはさらに練習をするのだ。しかし水戸部はやわらかく笑い、弁当を火神に押し付ける。火神はなんだか申し訳なくなり、断ろうとしたが腹が鳴ってしまったのでその場では断れなくなってしまった。なんて後輩だ。

 その日の帰り、火神は水戸部に昼のお礼に何か奢りますと申し出た。しかし水戸部は首と手を横に振る。火神はなんでだよ、と半ばキレたが、すぐに小金井の介入によってそれは阻止された。火神は小金井からの、水戸部の言葉を待った。小金井が困った顔の水戸部をチラリと見て、火神を見た。
「お礼してくれるなら、試合に勝ってだってさ!」
「え」
「だから、物とかじゃなくて、勝利をって」
 火神は水戸部を見た。そこには真剣なまっすぐな目をした水戸部がいた。まさに縁の下の力持ち。火神は胸が熱くなった。そして、昔アメリカ人の友達から熱弁されたある単語を思い出した。火神は真剣に馬鹿だった。
「まさに、大和撫子……!」
 小金井はすぐさまに水戸部を見た。あ、小金井が水戸部の考えをキャッチした。火神それちゃう。なぜか関西弁だった。気持ちはわからなくもない。



舌にできた罪
お題>容赦
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テーマ「人外ファンタジー」
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