笑い声が聞きたいんだよ、と伊月は少し弱く笑って見せた。そんな笑みを見て、水戸部が申し訳無さそうに瞼を伏せ、ぺこりと頭を下げる。謝ってほしいわけではない。ただ、笑い声が聞きたいだけなのだ。伊月は水戸部にごめん、と漏らした。水戸部が泣きそうな顔をして、首を横にブンブン振る。体格に似合わないいじらしい仕草に、余計に伊月の心が痛む。違う。悪いのは、悪いのはまだ未熟な俺なのに。
「水戸部。俺、水戸部が笑うまで諦めないから」
 その、試合の時のような真剣な眼差しに、水戸部は小さく頷き、ふわりと笑った。今だけは、伊月の鷲の目でも容易に水戸部の言いたいことが分かった。待っている、と。だから伊月は、誓った。もっともっとダジャレを考えよう、と。
「いや……お前の寒いダジャレじゃ無理だろ……」

(伊月と水戸部)


 なんとなく気になった。果たして、緑間は爆笑するのか。だから高尾は直ぐ様訊ねた。爆笑したことある?と。緑間は首を捻った。
「爆笑……」
「え、真ちゃん爆笑の意味は分かるよね!?」
「馬鹿にするな!意味くらい分かるのだよ!ただ、爆笑した記憶があまりないというかだな」
 最後のところで、緑間はもう一度記憶の糸を辿る。面白いやツボにハマる、という感覚は理解出来る。ただ、自分が果たして高尾のような笑い方をしたことがあるか、と訊ねられると頷けないのだ。だから緑間はもう一度記憶の糸を辿り、うん、と頷いた。爆笑したことがない。すると高尾がやっぱりかー、と項垂れた。しかし、すぐにいつも通りのにこにことした人懐っこい笑みを見せた。
「んじゃあ、俺が緑間を爆笑させてやるぜ!」
 何を言い出すかと思えば。緑間は眼鏡のブリッジを押す。だが高尾は鷹の目を爛々とさせながら、卒業するまでには、と的確な目標まで掲げてきた。
「ふん。出来るものならやってみろ」
 だから、緑間は少しだけ笑ってそう言った。珍しい。きっと、緑間自身は笑っているとは気付いてはいないのだろう。しかし高尾は不満げに唇を尖らせ、なんで笑ってほしいときに笑わないかなと心中で悪態を吐いた。

(高尾と緑間)



簡単に逃がしはしないから?
/笑かしたい鷹鷲
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