「お前は影なんかじゃねぇよ」
 高尾は満面の笑みで黒子にそう言い放った。黒子はそんな高尾の満面の笑みに対し、バニラシェイクを啜る音を返した。しかし高尾はそれに対しては何も言わずに、勝手に黒子と同席した際に頼んだハンバーガーを食べる。不思議な感覚だった。黒子は影が薄い。尋常でなく薄い。現に、今でもチームメイトは近くにいても黒子を見付けられない時もある。キセキの世代でさえも時たま見失うというのに。けれど、チームメイトでもない高尾は易々と黒子を見付け、黒子と向かい合って座る。そして満面の笑みで黒子は影ではないと言った。黒子は見付けてくれて嬉しいような、影だと言っている自分を否定されて腹が立つような、そんな複雑な気持ちで腹がいっぱいだった。高尾はばくばくとハンバーガーを食べる。
「緑間くんは?」
「忌引き」
 いつも高尾といる緑間の存在がない。それがこんなにも面倒になるとは。黒子は内心苦々しい思いでいっぱいだった。それだけで黒子には自覚はないが、きっと黒子は高尾に腹を立てていた。だから柄にもなく、黒子は微かに刺々しく高尾に話しかけてしまった。
「僕は影だ」
 高尾が満面の笑みで黒子を見詰める。
「お前は影なんかじゃねぇよ」
「なんでですか?」
 黒子は、自分は高尾に腹を立てていると、この時にようやく自覚した。バニラシェイクを半分飲みきり、ハンバーガーが半分以上無くなった時だった。高尾は残りのハンバーガーを一気に口に放り込み、疑問もなにもない顔で飲み込んだ。
「だって、影があんなに目立つわけないだろ?」
「僕は、目立ってなんか」
「目立ってるよ。だってお前さ、色んな学校の奴からマークされてんだぜ?中学の時はなかったはずなのに」
「それは、キセキの世代と一緒だったから」
「はぁん、わかったわかった」
「何がわかったんですか」
 高尾がまた満面の笑みを見せた。黒子は、今すぐ高尾から逃げたかった。
「やっぱりさ、お前も立派なキセキの世代だな。うん、そうだよな、だってそうじゃないとおかしいもんな。だってたかが影が、他人の人生に影響を与えるわけないもんな。チームメイトからあんなにも頼りにされないもんな。試合を変えられるわけないもんな。なんだよお前、影でもねぇし、幻のシックスマンでもねぇよ。ただの、キセキの世代じゃねぇか」
「何が言いたいんですか!」
 つい、黒子は怒鳴ってしまった。しかし高尾以外の人間は気付かない。高尾だけは、満面の笑みだった。悪意が感じられない。高尾は黒子を咎めなかった。
「別に?ただ俺は、お前は俺と同じだと思ってたら全然違ったなって」
「そりゃあそうですよ。だって僕は、影なんですから」
「じゃあ影なら、意見なんて言わなきゃいいのに」
 高尾はずっと満面の笑みだった。何故なら高尾は何も悪いことをしたわけではないからだ。高尾はただ自分の意見を素直に述べたにすぎない。けれど、黒子は何かとんでもないことを当てられてしまった気分になった。バニラシェイクを飲む気もしない。高尾が立ち上がる。黒子は高尾に何も反応が出来なかった。
「んじゃあな、主人公になっちまった奴」
 この時、高尾は少しだけ残念だった。同族嫌悪と昔言ったが、自分に似た人間がいたことに少なからず安堵していたから。いや、むしろ自分よりもすごいやつだとすら思っていた。しかし、どうやらそれは外れだったらしい。高尾は無償に緑間に会いたくなった。そして次に、どうして黒子の頭の中には、友達のために頑張るという考えが出ないのか、と思った。そう言えば、影と光などというややこしいしがらみも何もなかったのに。本当に、そういう簡単なことに気付けない黒子は、つくづくキセキの世代だと高尾は一人、声を出して笑った。



ぱちぱち棄てて
/影ができなくなった影と友達を選んだ影候補
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