それを見付けた時、ふと脳内に出てきたのがそれと同じ色の髪の毛だったので紫原はそれを買った。意味なんてものはない。強いて言うなら、なんとなく親近感が湧いたから。あと、美味しそうだったから。

 桃井が廊下を歩いていると、後ろから「さっちん」と桃井を呼ぶのったりとした声がする。振り返らなくともわかる。桃井を「さっちん」と呼ぶ人間は、今のところ一人しかいないからだ。桃井は諦めの心を持ちつつ律儀に振り返り、その巨体な同級生を見上げた。のそりのそりと距離が近付く。桃井は小さくため息をつく。
「なに、ムッくん」
「んー」
 口をもごもごしている。恐らく飴でも舐めているのだろう。よく見れば手元には飴が入った袋らしきものがあった。何味かは、紫原の手で見れない。桃井はもう一度「なに、ムッくん」と返した。しかし紫原はまたもやそれには答えず、代わりに飴の袋に手を入れ、何個か取り出し、そのまま桃井に差し出した。
「さっちんにあげる」
 舌足らずな言葉に、桃井は一瞬何を言われたのかわからなかったが、直ぐ様自分も手を出し、紫原の手から飴を受け取る。手のひらには、4つほどの飴が転がっている。いちごみるく、とピンク色の可愛らしい字体で書かれていた。袋を開けたら、字体みたいなピンク色の飴が出てきた。桃井は飴から紫原へと顔を上げ、素直に「ありがとう」と言った。しかしまたも紫原はそれには答えず、小さく頷き、洩らす。
「やっぱり、さっちんはピンクで可愛いのが似合うね」
 いちごみるく味の飴を見付けた時、ふと脳内に出てきたのがいちごみるくと同じ色の髪の毛だったので紫原はそれを買った。意味なんてものはない。強いて言うなら、なんとなく親近感が湧いたから。あと、いちごみるく味の飴が美味しそうだったから。舌の上でいちごみるくが溶ける。甘い。けれど、嫌いではない。ピンクは、嫌いではない。



甘いのね
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