黒子と一緒に帰ろうとすぐに部室に戻った桃井がくしゃみをした。すでに着替えを終えていた部員たちはそんな桃井に一斉に視線を向ける。その視線に、桃井は照れたような笑顔を浮かべるだけだが、またすぐにくしゃみをし、笑顔が台無しになる。そんな桃井に、赤司と緑間はマネージャーとはいえ体調管理には気を付けろと言い、黄瀬は大丈夫っスかと桃井を気遣い、紫原はのど飴を渡そうとポケットを漁り、青峰はあくびをした。桃井は紫原からのど飴を受け取りながら(ちなみにいちご味)青峰以外に向けて、ありがとうと礼を言った。いいっスよと返事をしたのは黄瀬だけだ。そして、肝心の黒子はと言えば、紫原の袖を引っ張っていた。のろりと紫原が黒子を見下ろす。
「黒ちんものど飴いる?」
「違います、紫原くん。紫原くんの上着を貸してくれませんか?」
「んー、いいけどー?」
 先程閉めたロッカーを開け、紫原はXXLサイズの上着を黒子に渡した。黒子は自分と背丈が同じくらいの紫原の上着を受け取り、紫原にありがとうございますと言った。青峰が親の服借りた子供みてぇ!とゲラゲラ笑うが、黒子はそれを無視し、上着を持ったまま、桃井のところへ行った。
「テ、テツくん?」
 その上着はなんなのだろう。どうして黒子は自分の体調を心配してくれないのだろう。それにしても黒子は格好いい。様々な思考が混ざる桃井に、黒子は淡々と上着を広げ、桃井の手を引いて自分に近付けさせ、二人一緒に上着を羽織った。一気に近くなった距離に、桃井の頬がカッと熱くなる。しかしそんな桃井を気にしていないのか、黒子はサイズがサイズなだけに上着にまだ余裕があるのを確認してから、上着の前を閉じた。よりいっそう黒子を近くに感じ、桃井の頭はパニック状態だ。
「桃井さん、あったかいですか?」
 黒子の声も近い。部活が終わった後なので、匂いも近い。桃井は日本語を忘れたように口をパクパクさせ、しかしどうにか返事をするためにコクコクと何回も頷いた。黒子は良かったですとうっすら笑う。また桃井の胸がきゅんとなる。誰が見てもわかるほどに赤い桃井の顔は、とても微笑ましい。黄瀬はそんな桃井を見ながら、黒子っちやるなぁとにやついた。青峰は黒子に男前!と冷やかし、緑間は恥ずかしくないのかと黒子に問う。しかし黒子はさらりと一蹴する。
「すみません、ラブラブなもので」
 部員に見えないように、上着の中で繋がれた手が熱いのは、桃井と黒子しか知らない。



それに触れた途端、全てがぶっ飛んだ
お題>名前がない
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テーマ「人外ファンタジー」
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