「女の子になりたい、な」
 頭上から抑揚のない声で敦がそんなことを言ったので、思わず再放送中のドラマから目を離し、アツシの股の間に座っていた俺はアツシを見上げた。しかしアツシはそんな俺のことなど気にせず、バリボリとお菓子を食べて再放送中のドラマを見ている。どうやら独り言のようだ。なんとなく心配に似た感情を抱いていたので、ため息が漏れる。そして再び再放送中のドラマへと目を戻す。
 再放送中のドラマは嘘っぽい恋愛ドラマだった。それでも見ているのは、ただヒロインの女の子が俺のタイプだったからだ。最近見掛けなくなったが、引退なんてしていないよな。そういう不安を抱きながら見る。そんな俺とは対照的にドラマの中のヒロインは、彼氏にどろどろに甘い笑顔を見せている。台詞はアツシのお菓子を食べる音に掻き消されている。別に気にはしないが。というかだ。そもそもアツシが、こうしてドラマを見るのに付き合ってくれているのが珍しい。ちゃんと見ているかは、今の俺の位置から確認は出来ないが。
 ドラマのエンドロールが流れる。まだ明日もあるので、見れたら見るつもりだ。明日はアツシには講義があるから敦は見れないだろうが、まぁいいだろう。それでも、もしもアツシがこのドラマを気に入ったなら録画はしておこうかな。そう思って敦を見上げ、手を伸ばして頬を撫でてアツシの意識をこちらに向ける。お菓子を食べたまま、アツシが見下ろす。
「なーに」
「アツシ、このドラマ好きか?」
「ん〜……女の子になりたい、な」
 まただ。そして意味がわからない。だから素直に意味を訊ねた。するとアツシは、俺の手に自分から頬を擦り寄せながら答えた。
「だってさ、男の子と一緒にケーキバイキング行っただけで、安くなるんでしょ?」
「……アツシらしいな」
 とてもアツシらしい理由に笑ってしまう。それと同時に心配なんてするんじゃなかったとため息を吐く。アツシの頬をつねる。室ちん痛いよとアツシが呻く。素手ならお前のが強いんだから、さっさと俺の手を退かせばいいのに。馬鹿だなぁと思いつつ、つねるのを止め、代わりに唇を撫でた。お菓子のカスが着くが、気にしない。それに、こういうアツシのほうが、ドラマのヒロインよりよっぽど可愛い。だからアツシは女の子になんて、ならなくたって俺は好きだよ。



はちみつを甘くした
お題>舌
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