待ち合わせ場所として指定されたカフェに入ると、黄瀬がすぐに目に入った。髪が目立つからではない。店内にいる店員を含めた女全員が黄瀬しか見ていないからだ。空気が重い。さつきが100人いるみてぇだ。それなのに、黄瀬は慣れているからかそれとも気付いていないのか、足を組んだままコーヒーを啜って俺を待っていた。それがまた様になるのだろう。女全員がため息を吐いた。あんなんのどこがいいんだ。
 しかし、いくらこの空間が嫌でも、俺は今日黄瀬に会わなければならない。なぜなら待ち合わせをして、今からバスケの試合を観に行くからだ。つか、こんなオシャレな場所に俺を呼ぶなっての。重い足取りで黄瀬んとこに行く。
「お前、早い」
 席に着く前に黄瀬を見下ろし、一言言えば、黄瀬はなぜか嬉しそうにやっほーっス、とか言う。何がやっほーだ馬鹿。席に着く。
「てか、俺は時間通りに来ただけっスよ」
「それでもお前はもう少し遅れてこい」
「遅れたらなにしてくれるっスか?」
「ぼこる」
「ひどっ!」
 オーバーリアクションをする黄瀬にも女全員が騒ぐ。待て待て今のにときめく要素はねぇだろ?顔か?顔がよけりゃあいいのか?
 先程女全員が黄瀬に対してしたため息とは違う意味のため息をし、俺はメニューを開く。すると黄瀬の指がすぐに割り込み、青峰っちにはこれがオススメっスよ、などとほざいた。確かに、オシャレなカフェにしてはボリュームとかあって良さそうだが。
「ふふー、青峰っちが来るまで見てましたからね!」
「お前は俺のファンか」
「ファンっスよ!大ファンっス!」
「やめろ恥ずかしい!」
 冗談で言ったのに真に受ける黄瀬を軽く殴り、女全員から睨まれるが無視する。文句があるなら黄瀬に言え。店員を呼び、黄瀬に勧められたやつと適当に飲み物としてカフェオレを頼む。黄瀬は殴られていたのが嘘のように、にこにこ笑って俺を見ていた。
「キモいぞ黄瀬」
「えー、そうっスか?」
「あぁ、ドン引きするくらい」
 メニューを戻し、時計を見る。試合までまだ時間はある。食ったらどっか回るか。カフェオレが運ばれる。
「んー、けど、俺は青峰っちとお出かけってワクワクするっスから、しょうがないっスよ」
「キモい」
「もー、青峰っちったらー」
 にこにこにこにこ。黄瀬が笑うたびに女全員がきゃーきゃー猿みたいに騒ぐ。うるさ。カフェオレを飲みながら憂さ晴らしに黄瀬の足を踏む。悲痛な叫びが聞こえたが無視する。やっぱこいつを誘うんじゃなかった。



重いため息
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テーマ「人外ファンタジー」
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