最近紫原が黄瀬に懐き出したらしい。なぜならば紫原が黄瀬に懐く要素はたくさんあるからだ。紫原は才能がある人間しか認めない人間だから、才能がある黄瀬を認めるのは当たり前のことだった。黄瀬はモデルをやり、女子からモテ、当たり前のようにたくさんお菓子をもらうことがあり、黄瀬がそれをお菓子が大好きな紫原に渡すのも当たり前のことだった。なにより、大抵の人間と適度な関係でいたい黄瀬は紫原に対して早い諦めを持ち、そしてバスケの話を決して振らない。紫原がバスケを好きではないと知っているからだ。だから紫原の中で黄瀬株は日に日に上がっていった。ごくごく自然なことだった。
 だから、赤司は静かに焦った。表面上は何も変わっていない。しかし、確かに赤司は静かに焦った。赤司から紫原が離れてしまうのは、これ以上ないほどに惜しいからだ。だって、あんなにも都合のいい人間はそうそういない。才能があり、赤司と同じように弱肉強食思考で、馬鹿で、身体が大きく、なによりも赤司の言うことをよく聞く。こんなにも良い物件にはそうそう巡り会えないだろう。だからこそ赤司は静かに焦った。もしも紫原が、黄瀬の言うことしか聞かなくなったらと考えただけでなんとも言えない気分になる。
 そんなわけで赤司は紫原を甘やかすことにした。紫原が好きそうなお菓子を買ってやり、紫原が練習がキツいと言えばほんの少しだけ休ませたりした。紫原を初めとした部員たちはどうしたのかと首を傾げたが、結局は赤司に何か考えがあるのだろうということで誰も何も言わなかった。
 赤司は紫原を甘やかしながら、ところどころで紫原は誰の言葉を聞けばいいかを尋ねた。そして紫原が赤司の名前を出すたび、そうだ俺の言うことを聞けと優しく諭した。紫原は頷く。紫原からすれば、赤司以外の言うことを聞く気はさらさらないからだ。ということはつまり、赤司の行動はまったく意味を成さないわけで、そして黄瀬はただの噛ませ犬だったというわけで。



くだらなくて犬が空を飛んだ
お題>女顔
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テーマ「人外ファンタジー」
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