「赤ちんは俺に嘘言わないよ」
 敦はぽんやりとした眠たげな目のまま、そう呟いた。僕はそんな敦を見上げ、少し背伸びをして渇いた頬を撫でた。敦が僕の小さな手に擦り寄る。猫のようだ。実際は猫だなんて可愛いもんじゃないけれど。爪先が辛くなる。手を離し、背伸びをやめて普通に敦を見上げた。敦はぽんやりとした眠たげな目で僕を見下ろす。こういうときだけ、小さいのが気に食わない。いや、僕は平均なんだが。
「敦はいい子だな」
「赤ちんが優しいからだよ」
 優しいかどうかの基準が曖昧なので、曖昧に笑っておく。けれども敦は気にしない。だって敦には僕しかいないからだ。敦の世界が、もっと僕だけになればいい。
「敦は、僕が死ねと言えば、死ぬか?」
「うん」
「そうか。じゃあ、僕が死ねと言うまで、死ぬなよ」
「うん」
 敦が欠伸をする。それほどまでに当たり前なことだと言われているようで気分がいい。赤ちん、敦が僕を呼ぶ。
「赤ちんは、死なないよね」
「当たり前だろう」
 今度ははっきりと笑った。敦も笑う。こうして僕たちは一生死なない。



酸素の必要性
お題>舌
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