バレンタイン。その行事に一番やる気を出すのが普段は気だるげ漂わせる紫原だ。何も、紫原は女子にモテたいなどとは思ってはいない。というか、紫原は女子などよりも、女子がくれるチョコレートにしか興味がない。だから紫原は事前にバレンタインにチョコレートをくれと女子にねだったし、大量にチョコレートを貰える黄瀬にも予約はしていた。そんな紫原を見て、緑間は普段からそれくらい人事を尽くすのだよとため息を吐いた。
 バレンタイン当日。紫原の鞄はチョコレートでぱんぱんに膨らんでいた。そして机の横には、黄瀬から譲り受けたチョコレートが入った袋が3袋ほど置かれていた。(ちなみに黄瀬は抜かりなく、女子には紫原と一緒に食べると伝えている)クラスの男子も紫原の性格を知っているので、文句も何も言わず、むしろあまりのチョコレートの数に写メを撮るほどだ。紫原はそんなことなどお構い無しに、チョコレートを頬張る。黄瀬は隣の席でそんな紫原を眺め、幸せそうだなぁと少しのほほんとした。
 昼休みになり、紫原はいつもの面子と昼食を取ることにした。いくらお菓子が好きとはいえ、ずっとチョコレートはキツい。というのは建前で、以前赤司からご飯もきちんと食べるようにと言われてるだけなのだが。
 いつものようにご飯を食べる紫原に、青峰と黒子がチョコレートを食べてよく食べられるなと最早尊敬に似た眼差しを向けていた。特に少食な黒子は、その栄養がすべて身長に行くのだろうかと真剣に考えた。しかし紫原はそんな黒子の複雑な思考など知らず、もりもりとご飯を食べる。そんな紫原の向かいで、赤司がにこりと笑う。
「紫原。今日はバレンタインだな」
「うん。……あ、」
 紫原がおもむろに食べるのを止め、ポケットを漁り始めた。赤司を含め、その場にいた全員がなんだなんだと紫原を見守る。というか、赤司は早く紫原にゴディバのチョコレートを渡したいのだが。紫原がポケットから何かを掴み、そして赤司の頭の上まで持っていく。パラパラ。
「赤ちんにチョコレートね」
 その場にいた全員が絶句した。あの赤司も何も言えない。何せ、紫原が赤司の頭の上から落としたのは大量のチロルチョコレートなのだ。あの赤司に、寄りによってチロルチョコレートを。しかし紫原だけはのほほんと、いつも通りの気だるげな笑顔で赤司を射ぬいた。
「大好きな赤ちんと大好きなチロルのコラボっていいよね〜」
 うわぁ。赤司と紫原以外の面子全員がタイミングよく同じことを思った。何せ、これはチョコレートなどと比べ物にならないくらいに、甘い。ゲロを吐くくらい甘い。しかし赤司だけは、ふっと笑い、紫原に礼を述べてゴディバのチョコレートを渡した。流石赤司である。紫原は赤司からのチョコレートに、目を爛々と輝かせる。赤司はそんな紫原を可愛い可愛いと頭を撫でた。
 そんなバカップルのような二人からいち早く目を反らした緑間は、ふと赤司の周辺に散らばったチロルチョコレートを見た。湯豆腐味。イカスミ味。ペペロンチーノ味。よもぎ餅味。その他エトセトラ。緑間は紫原がいかに下手物食いかを痛感した。そして、赤司はそれ以上だということも。



チロルでいいから
/企画提出文
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