昔の話である。俺は昔からよくモテていた。女の子たちいわく、俺はすごくかっこよくて王子様みたい、らしい。けれど俺は別に女の子にすごくモテたいわけでもなかったし(そりゃあ、まったくモテないのも嫌だが)、何か夢中になれるようなことがなかったから、なぁなぁで過ごしていた。今考えると、失笑するくらいのくだらない話なのだが。
 ある日、俺は女の子たちからいつものようにお菓子を貰った。小学校の小さな家庭科クラブで作ったというそれは、不恰好ながらもカップケーキだった。本当はいらない、と言えばいいのだが、女の子たちのキラキラとした眼差しと男の子たちのギラギラとした眼差しとが俺を見張っていたので、いらないと言うことは叶わなかった。
 帰り道、俺の家は小学校から一番遠いところにあるので必然的に一人になる。とぼとぼと歩きながら、キラキラとギラギラな眼差しを思い出してしまい、吐き気がした。怖い。その気持ちはきっと、小学生ならではのストレスの感じ方だったのかもしれない。けれど、まだストレスだと理解していなかった俺はそのままカップケーキをごみ捨て場へと置こうとした。きっと食べるのが、本当に嫌だったのだろう。
 そして、結果としてカップケーキはごみ捨て場には置かなかった。いや、置けなかった。
「それ食べないの?」
 後ろから、のんびりとした男の声がした。大人にバレたか、と内心焦りながら振り向けば、そこには紫色の髪の男がいた。背が高い。男子高校生くらいは、ある。小学生にとって、デカイ奴というのはただただ単純に恐怖でしかない。しかし紫色の髪の男はのろのろとこちらに近付き、カップケーキを指差す。
「それ食べないの?」
「……いり、ます?」
「あ、いいの〜」
 ありがとう、これまたのんびりと礼を言う。そして俺は、紫色の髪の男がお辞儀をした際に見えた黒いランドセルに思考が停止した。しかし紫色の髪の男、改め紫色の髪の男の子は俺の手からカップケーキを奪うように取り、
「食べ物は粗末にしちゃダメだよ〜」
 とだけ言って去っていった。俺はパンクした自分の頭がどうにかなるまでそこで立ち尽くしたままだった。

 ということを思い出す。いつもではない。紫っちにおかしを上げたときだけだ。きっと紫っちは覚えてはいないのだろうから、言いはしないが。
「紫っちはよく食うっスね」
「うん、だってお菓子美味しいもん」
「はぁー、そうっスか」
「うん。だから、黄瀬ちんがまたお菓子捨てるときは、ちょーだいね」
「え」
 昔の話である。



あ、えと、はい
レス>ピアス菓子以外の指定が特になかったのでショタになってしまいました。本当はきゃいきゃいする予定だったなんてそんな…。は!今気付いたんですがもしかして「ピアス菓子」はタイトルだったのでしょうか?もしそうでしたらすみません…。 私も木綿さんの小説リアタイ共々でへでへ眺めております。実はこっそり実リコにそわそわしてみたり…。リクエストありがとうございました〜。
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