いくら跡部の誕生日と言っても我が立海テニス部は休みにならない。しかし氷帝は跡部のファンたちのせいで練習なんて出来ないらしく、自動的に休みになるらしい。確かに跡部にはたくさんのファンがいるし、そんなファンを無視して練習なんて出来ないだろう。そうでなくとも跡部の家はお金持ちだから、盛大なパーティーを開く。真田は氷帝の、というか跡部のその話を聞いて怒鳴るどころか呆れていた。蓮二なんかは、日本経済がどうとか言って、すぐにノートに何かを書いていた。そのくらい、跡部という人間はいろいろな意味でスケールが大きすぎるのだ。ただの中学生のくせに。
 そんな、跡部と同じただの中学生である俺は日付が変わるちょっと前に跡部に電話をしていた。中学生なのだから、さすがに深夜までパーティーなんてことはないだろうと踏んだからだ。そして跡部のことだ。きっと今日出来なかった分を取り戻すためにちゃんと寝るはず。
 ぷるる、と何回かコール音が鳴った後に、よぉ、といつも通りの声が鼓膜を叩いた。
「やぁ、跡部。起きてたかい?」
「おぉ。さっきまでシャワー浴びてたぜ。タイミングいいな、お前」
「だな。良かった」
 己の運の良さにほくそ笑む。電話の向こうでは跡部が歩いているのか、スリッパの音が聞こえる。あぁきっとすぐにでも寝たいのだろうな、と予想がつく。よくよく考えれば、いくら跡部と言えど、たくさんのファンたちや知り合いなどに囲まれっぱなしは疲れたに違いない。嫌なわけではないがたくさんの人の相手をするのは疲れる、というのを身をもってよく知っているので、俺はすぐに用件を口にする。
「跡部、誕生日おめでとう」
 さっきの会話のあとのほどよい沈黙からということもあり、それはきっとすんなり跡部の耳に届いたに違いない。けれど、跡部は返事をしない。どうしたのだろうか。もしかして、プレゼントを渡さなければならないのだろうか。そんなことを考えてみたが、すぐに否定する。跡部は態度がデカイが、そんな人間ではない。だいたい、前に跡部への誕生日プレゼントは次会ったときに渡すと伝えたのだから、怒られるわけがない。ちなみに跡部への誕生日プレゼントは跡部からのリクエストで、俺の描いた絵だ。
「跡部?」
 長く不自然な沈黙に耐えきれず、静かに名前を呼ぶ。するとようやく跡部が、なんだよ、とふてくされたような声で答えてくれた。良かった、無視はされていない。
「どうかしたか、急に黙って」
「……別に。なんでもねぇよ」
「眠いならすぐ切るよ」
「切るな」
 そこは瞬時に返事がきた。なんなんだいったい。不思議に思い、首を傾げる。しかし次の瞬間、跡部が言いたくなさそうに可愛いげのあることを言ってきた。
「日付が変わるまで、切るな」
 その言葉の意味を理解するために、今度は俺が長く不自然な沈黙を作ってしまった。いや、でも、これはなんというか、可愛いし、俺のうぬ惚れでなければ先程の跡部の沈黙の意味にも微笑まずにはいられない。きっと跡部はそんなこと言わないだろうから、真相はずっとわからないままかもしれないだろうけど。
「幸村?」
 先程の俺のように跡部が俺を呼ぶ。けれどそれは相変わらずふてくされたようなものだ。俺はすぐになんだい、と返事をする。
「なに黙ってんだ。まさか、お前のが眠いんじゃねぇの」
「違うよ。ただ、嬉しくてね」
 耐えきれずに笑い声を漏らせば、跡部はばつが悪いのか、舌打ちをこぼす。しかし一向に通話を切らない辺り、どうやら俺のうぬ惚れはうぬ惚れではないみたいだ。
 こんなことなら、スカイプにしておけば良かった。顔が見たくて仕方ない。
「好きだよ、跡部」
 日付が変わるまで、あと10分。



甘ったるいバースデイ
/跡部おめでとう!
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