幼い頃から樺地と一緒にいるせいか、稀に親や樺地の親が跡部に、樺地を弟にするか? というようなことを冗談なのか本気なのかわかりにくい声で言うことがあった。もちろん跡部は幼いながらにそれが大人たちの軽い冗談であり、本当に樺地を跡部の弟にするつもりなどはないという理解していた。しかし跡部はその問いにはいつも真面目に、いや、いい。と断っている。大人たちがみな、そんな跡部を優しい空気で見ていると知っていても、これだけは譲れなかった。
 跡部は樺地と家族になどなりたくないのだ。

「跡部と樺地って兄弟っぽいよな」
 ふいに向日はコートから部室へ戻る途中でそんなことを言った。右隣にいた忍足と宍戸はその言葉に首を傾げるだけで賛同できなかったが、左隣にいた芥川は眠気眼を擦りながら、なんとなくわかるかも〜と賛同していた。
「だよな。なんか、勝ち気な兄貴と内気な弟って感じ」
「そうかぁ? どっちかっちゅうと、兄貴分と弟分ゆうほうがしっくりくるけど」
「だな。つか、跡部に兄弟とか似合わねぇだろ」
「でも跡部は面倒見いいC〜」
「お前には」
 やれやれと呆れた目で宍戸は芥川を見やる。これに関してだけは忍足も向日も賛同するしかない。けれど芥川はどこか納得していないのか、え〜!? と不満そうに声を上げ、目線を宍戸から外し、そして、あ、跡部だ〜! と先に部室に着いていた跡部の元へ走った。向日たちも嫌々ながら、それを追い掛ける。
「なんだ慈郎、トレーニングもそんくらい走れ」
「え〜、やだC〜」
「慈郎は跡部がいたから走っただけだからな」
 息を切らすことなく追い付いた向日はにたにた笑う。跡部がなぜか芥川には甘いことを知っているからだ。跡部はその意図を察したのか、否定するようにため息を吐き付ける。向日はまだにたにたと笑っている。跡部の眉根を寄せた表情に、忍足は慌てたように話題を変える。
「あ、そういえば跡部、さっき岳人と慈郎が跡部と樺地は兄弟みたいやって話しとったで」
「あぁん?」
 しもた、悪化した。と忍足は跡部の機嫌の悪そうな声に話題を変えたことを後悔した。しかし向日と芥川と宍戸はそんなことなどお構いなしなようで、話を続けようとする。しかも当の跡部をおいてけぼりである。忍足はたまに、この幼馴染み三人組はある意味凄いと感じる。
「だーから、跡部と樺地は兄弟ってか兄貴分と弟分みてぇなもんだっつってんだろ!」
「けど、なんか兄弟にも見えんだろ?」
「跡部はどう思ってんの?」
 すい、と芥川は跡部の顔を見る。跡部は先程から酷く苛立ったような顔をしながら三人を見ていたため、かなり酷い顔をしていた。しかしそのことに触れさせる前に跡部はバッサリと切る。
「俺様と樺地はそんな兄貴だとか弟だとか、あまっちょろいもんじゃねぇんだ。くだんねぇ話すんな」
 もはや怒っているかのようだった。むしろ怒っている。これにはさすがに三人も空気を凍らせた。もちろん忍足の空気もだ。そして跡部はそれ以上はなにも言わず、固まっている四人を放って部室へと向かった。四人の間に微妙な空気が流れ始める。
 もしかして、知らず知らずの内に、跡部の地雷に触れてしまったのではないか。
 その地雷が何かは的確にわからないままでも、四人にはこれからは跡部に「樺地 兄弟」のキーワードを放り投げてはいけないことだけは嫌でもわかった。そしてきっと、樺地にも。



ノー・ブラザー
/タイトルは適当ですよ
×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -