なんの気兼ねもなく手を繋げたあの頃に戻りたかった。そこには桃井の世界を阻む障害などなかったし、きっと青峰もそうなのだろう。だから性別がどうとか周りがどう見るかなど気にする必要がなかったし、なんだって出来たのだ。
 それなのに今は、なんと生きにくいことか! 桃井はひっそりこっそりため息を吐く。もちろん生きにくくなることがイコール人間としての成長ということを聡明な頭でもって知っている。しかし、ならばこんなものはいらないと桃井は成長というものを断罪したかった。賢くなんて、なりたくなかったのだ。
 桃井は青峰と帰り道を共にしながら、賢くなってしまった己を呪う。だって賢くなったから、世界をもっと知ってしまったから、今こうして手を繋ぎたいのに繋げない。もしかしたら青峰は、桃井が手を繋ぎたいと要求すればなんてことないように応えるのかもしれないが、桃井にはその要求を口に出すことさえも出来なかった。出来ないほど、生きてしまった。
「大ちゃん」
「んだよ」
「なーんにもないよ」
「可愛くねぇぞ」
 これが桃井の精一杯だった。無理をして呼び名を矯正してみたが、やはり桃井の唇にこの呼び名がぴたりと嵌まる。けれど、その続きは決して言いはしない。それがとても、もどかしい。



玉ねぎのような恋
お題>背骨
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