慈郎はよく部活中にふらりと居なくなる。たいがいそれは心地よく眠りに着くための場所探しのためで、探しに行けばすやすやと気持ち良さそうな寝息をたてて慈郎は寝ている。またその頻度は高く、ほぼ毎日と言っても過言ではない。一時期このことが部内で問題になったが、強さこそがすべてな氷帝学園テニス部では結局どうにもならなかった。というよりも、当事者である慈郎がまったくと言っていいほどにそういったことに関心がなかったのだ。
 今日も慈郎が部活中に居なくなった。跡部はそのことに気付くと、真っ先に樺地を呼ぼうとした。もはや樺地が慈郎探索兼運び屋と化しているからだ。しかし残念なことに樺地は今から部内で行われる練習試合に出なければならず、跡部は樺地を呼ぶのを止めた。そして他のレギュラーメンバーに慈郎を探すように指示を出そうとしたが、樺地と同じ理由で止めた。だが、ここで慈郎を放っておくことも出来ない。なぜならば、慈郎も練習試合に出なければならないのだ。
 跡部は面倒くさそうにため息を吐く。事実、とても面倒くさい。なぜ俺様自らが迎えに行かなければならないのだ。文句が脳内を埋めてしまう前に跡部は颯爽と榊の元へ行き、慈郎を探すから少し抜ける旨を伝える。榊は跡部が抜けることを了承した後に、独り言のように「あまり甘やかすんじゃないぞ」と言った。跡部には意味がわからなかった。


 跡部が慈郎を見付けたのはそれからおよそ一時間ほど経過してからだった。そのあまりの時間に、さすがの跡部も辟易していた。何度、跡部家に支えるSPやヘリを使用してやろうと思ったことか。それと同時に、遅くとも20分ほどで慈郎を連れて帰ってくる樺地に感激した。今度樺地を労ってやろうと跡部は心に決めた。
 慈郎は氷帝学園校舎の、端の端にある大きな木の下で眠っていた。すやすやと、とても気持ち良さそうに丸まっていた。跡部にはそれが疲れ果てた自分を嘲笑うかのように見える。コートから大分離れたこんな場所を選んだのも、嫌がらせに思えてくる。
「おい、慈郎!」
 跡部はしゃがみこむと、容赦なく慈郎の頭を叩いた。半分ほどは八つ当たりも入っている。しかし慈郎はうう、と唸るだけで起きようとしない。その反応に跡部の中の苛立ちがさらに膨れ、慈郎の柔らかな頬を思いきりつまみ上げた。
「ったい!」
 さすがに慈郎は起きずにはいられなかったらしい。痛みに飛び起きた慈郎は悲鳴を上げ、何が起こったのかと涙目で顔を動かし、嫌みったらしい笑みを浮かべた跡部を見た。慈郎はぱちくりと目を丸くする。
「ようやくお目覚めか、この馬鹿者が」
 いまだ頬をつまんだまま、跡部は嫌味のように吐く。しかし慈郎にはその言葉は耳に入らず、代わりにつままれていない頬を自分で思いきりつまんだ。「いった!」跡部は慈郎の突拍子のない行動に、思わずといったふうに手を離す。
「な、にしてんだ、慈郎」
「いや、跡部が迎えに来てくれるなんて、夢かと思って」
 でも痛いから夢じゃないC〜。そう言って嬉しそうに笑う慈郎に、今度は跡部が目を丸くした。というかお前、さっき痛みで起きたんだろうが。というツッコミさえも出てこない。
「跡部が迎えに来てくれて、ラッキ〜」
 尚もにこにこと笑う慈郎に、跡部はしばらくの間、自分はなんのためにここに来たのかを忘れ去ってしまっていた。



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