恋愛小説を好むが、実際にそんな恋愛がしたいかと問われたら忍足はすぐさまに否定するだろう。現に「こんな恋愛がしてぇのか?」と図書室の椅子に座りながら跡部は忍足が読んでいた恋愛小説を指したが、忍足はため息混じりに否定した。もちろん肯定して跡部に馬鹿にされたら嫌だから、というわけではなく、本心からだった。しかし跡部は納得がいかないのか、いつもの口癖と共に首を傾げる。どうやら跡部の中の自分は相当なロマンチストであるらしい。忍足は笑いかけて、引っ込めた。
「なんや跡部、なんか不満か?」
「何が不満だ。ただ、ならなんで恋愛小説なんて読んでだって思っただけだ」
 それを不満というのではなかろうか。忍足はそう思ったが、下手に図書室で跡部を刺激するのも気が引けるので止めておく。代わりに跡部も宍戸たちみたいに普通な男子中学生としての感覚があるのだと感慨深くなった。中学生離れどころか人間離れしている跡部のこういう部分を見つけると、無性に忍足は安堵してしまうのだ。
 まさか忍足がそんな心境に陥っているとも知らない跡部は焦れたように、おい、と自分への返事を促す。忍足もそれに、ハッと思考を戻し、へらと笑う。
「すまんすまん」
「笑ってんじゃねぇよ、気持ち悪ぃ」
「ひどないか?」
「で、なんでだ?」
「無視かいな。まぁええけど」
 忍足は先程読み終えた本を手に取り、跡部に表紙を見せる。
「あんな、跡部。俺は話読むときに自分と登場人物とを重ねへんねん。むしろずっと傍観や。登場人物になりたいなんて思わへん。ただな、傍観やからこそ、えぇなぁ、幸せやなぁって楽しめんねん。やからまぁ、なんで恋愛小説を読むんや言われたら、いっちゃん幸せな話が多くて幸せな感じが伝わるからやな」
 言い終えて、ちょっと熱が入りすぎただろうか、と忍足は黙っている跡部を見て内心ハラハラした。というかだ。そもそも何が楽しくて自分は跡部相手に恋愛小説を読む自分について語らなければならないのだろう。忍足は今すぐ自分の相方よろしくどこかに飛んでいってしまいたかった。しかし跡部は特に嘲笑も見せることなく、ふぅん、と相槌のように口を開く。
「つまりてめぇは他人の幸福は蜜の味ってタイプか」
 なんやその新しいことわざ。忍足はうっかりそう突っ込みそうになったが、それよりも早く跡部が「まぁ悪い趣味じゃねぇな」と言ったので大人しく飲み込んでおいた。



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