負けた。赤司が。たったそれだけの情報が紫原の頭にこだまする。紫原は呆然としながら会場を見下ろす。地に伏せた赤司の姿が痛々しく映る。紫原の隣では氷室が何かを言っているが、ノイズになって耳に入らない。代わりに、赤司が言っていた「勝つのが当たり前」という言葉が入る。幻聴。紫原にも、そのくらいわかった。だが、それが幻聴だということを認めたくなかったのだ。だって、赤司が勝てば紫原はそんな幻聴を聞くことなどないのだから。
 気付けば、紫原は泣いていた。すう、と涙が頬を伝う。紫原自身は気付いているかはわからないが、氷室は気付いたらしく、ぎょっと目を開き、紫原がこんなにも静かに泣くことが出来るのかと驚いた。それはすなわち、紫原にとって赤司という存在がどれだけのものかを明確に表している。
 紫原は泣く。隣に氷室がいようが関係ない。なんといったって、赤司が死んだのだ。紫原だけの赤司ではない。みんなの、帝光中学校バスケットボール部の主将だった赤司が死んだのだ。
 目を閉じる。きっと今、彼は空っぽだ。紫原は胸が痛んだ。死んだ。赤司が死んだ。赤司征十郎の人生が否定された。これから彼は、どのように生きるのだろうか。
 目を開ける。相変わらず会場にいる赤司は地に伏せたまま。紫原は今さら涙に気付き、袖で拭った。横から氷室がポケットティッシュをくれた。鼻をかむ。少し頭が軽くなる。それでも赤司が死んだことは変わらない。弔わなければならない。少なくとも、赤司に従うと決めた自分は。
「ばいばい」



さらば!
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