病気を患ってから、幸村は何かと周りから気を遣われてしまうようになってしまった。もっと具体的に言うと、ずっと病人扱いされてしまうのだ。ただ気を遣われるだけならば以前から多々あったからまだいい。しかし本人がもう平気だ、病気は治ったのだと言っても誰も心から信用してくれず、けれど幸村本人にはもう完治して良かったという体で接してくるのだから、たまったものではない。もちろん幸村もわかってはいる。ある日突然倒れてそのまま入院して、手術までしていた人間の完治をそのまま受け入れるというのは中々難しいということを。その倒れた現場に居合わせていた人間なら、尚更ということを。
「だからって俺んとこ来んじゃねぇよ」
 久しぶりの休日に、幸村は跡部の家へと訪れていた。数ヵ月振りに会った跡部は相変わらず幸村相手にも偉そうで、そして数ヵ月振りに訪れた跡部の部屋は相変わらず幸村に合わせた空調になっており、柔らかな生地のソファーと相まってとても居心地が良かった。幸村は一瞬だけこれは病人扱いされているのだろうか、と勘繰ったが、すぐに跡部ならばきっと相手が病人だろうがなんだろうがこういったことを平然とするのだろうと思い、それからやはり跡部くらいの距離がいいな、と思った。だからか、幸村は思わず跡部に胸の内を吐き出してしまっていた。こんなはずではなかったのに。そして向かいに座っている跡部は心底不愉快そうに幸村の愚痴を一蹴する。それが申し訳なく、また心地よかった。
「すまない、本当はこんな話がしたかったわけじゃないんだが」
「ハン、嘘吐いてんじゃねぇよ。てめぇは俺様に聞いてほしかったんじゃねぇのか? アーン?」
「そう言われると、そうかも、しれないな」
 指摘され、気まずさから俯く幸村に、珍しく弱ってんじゃねぇかと笑い声を含ませて跡部はからかう。それから、それを少しでも真田とかに見してやればいいだろと投げ、二人の間に置かれたテーブルに用意された紅茶を口にした。幸村はその投げやりなような跡部の優しさに触れ、曖昧な笑みを見せることにした。跡部の言う通り、ただ弱っているのだろう。だから、病人扱いに敏感になってしまうのだ。親しい人間からの厚意も素直に受け取れなくなる。いつまた、絶望を見ることになるのかと、怯えてしまう。
「……俺は、我儘だなぁ」
「だな。お前は我儘だ。あともう少しちゃんと現実を見ろ」
「厳しいな」
「うるせぇ病み上がり」
 病み上がり、という言葉に胸が痛む。やはり病人扱いは堪える。けれど跡部の表情から罪悪感は見られず、むしろ何が悪い? とでも言いたげだった。自分の発言に責任を持つという姿を見た気がした。
「跡部はすごいな」
 ぽつりと漏らすと、当然だろとすぐに返される。当たり前のように返すのもすごいなと幸村は思ったが、それは言わず、すっかり冷めてしまった紅茶を飲むことにした。そして、やはり跡部くらいの距離が色々と楽でいいなと幸村は思った。



他人以上の距離
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