リゾット・ネエロはヴィネガー・ドッピオのことを信仰心がとても強い人間だと認識している。信仰している対象が単なる人間なため、信仰心ではなく心酔といったほうが正しいかもしれない。しかしリゾットから見ればパッショーネのボスであるディアボロに対するドッピオの姿勢を的確に表現するのならばまさしく崇拝、信仰だった。
「ボスからのお達しです」
 リゾットが現在住み処としているマンションに帰宅するとドッピオが玄関で佇んでいた。リゾットはその笑顔に一瞬だけ回れ右をしようかと考えたが、諦めて大人しく玄関へ足を踏み入れた。どうやって入ったんだ、などの疑問などは飲み込んでおきつつ、後ろ手でドアを閉じる。随分と小さな少年はリゾットがきちんとドアの鍵を閉めたことを確認すると、鞄から封筒を出し、渡す。リゾットは封筒を受け取るとすぐに中身を確認し、数人の老人の写真に目を細めた。
「こいつらか」
「はい。メンバーなどについては、リゾットさんに任せるそうです」
 任せる、というパッショーネのボスから自分に向けられるにはあまりにも似合わない言葉にリゾットは吐き気がした。けれどドッピオの顔を見れば幸福そうに、神の言葉を口にする信者のようなにこやかな笑みを浮かべていた。リゾットは封筒を懐にしまいつつ、以前街で見掛けたよくわからない神々を讃え信仰する人間のことを思い出す。ドッピオはまさしくそんな人間のようだった。
「お前は俺を殺しに来たわけじゃないんだな」
 確認するように言ってみる。ドッピオはリゾットが受け取ったのを最後まで見守っていた目をきょとんと丸くし、そんなわけないじゃないですかと馬鹿にするように言う。幼い顔がさらに幼く見えて、リゾットはうっかり笑いそうになった。
「ボスからは、貴方にこれを届けて伝言を伝えるよう言われただけですから」
「そうか」
「なんなんですか? もしかして、何かボスの機嫌を損ねるようなことをしたり、ボスのことを探ったりしたんですか? それとも、ただ単に死にたいんですか?」
 微かな殺意を滲ませ出したドッピオは異教徒を見付けた信者のようだ。けれどリゾットはそこよりも、ドッピオが最後に言った言葉に驚いた。同時に、少しだけ興味が湧いた。
「もしも、殺してくれと俺が言ったらどうする」
「ボスからの命令がない限り、僕は貴方を殺したりなんてしませんよ。それに貴方はまだボスの役に立つ人間なんだから」
 即答だった。リゾットの予想通りの返答だった。ドッピオにしては珍しいことを言うからと、ほんの少し違った答えが来るかと待ち構えてみたが、そんなはずはなかった。ドッピオはどうしようもなく愚かで信仰心の強い人間だった。リゾットは思わず声を出して笑ってしまう。ドッピオはそんなリゾットに驚き、肩を跳ねさせて小さく怖い、と呟いた。その呟きさえも可笑しくて仕方ない。リゾットからすれば、ボスの一言でどんなことも躊躇わない、情に流されない、この世のすべてがボス基準なドッピオのほうがよっぽど恐ろしいと言うのに。



うつくしいこども
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