「君は誰よりも優しいから困るよ」
 と、なんの恥じらいもなく、むしろ温室の花々と同じくらい綺麗な横顔で囁くように滝は言った。跡部はそんな滝の横顔を一瞥し、この跡部と花に遠慮しているような話し方が滝の美点だと思った。だからといって、先程の言葉を聞き逃すことはしないが。
「なに言ってんだ、お前」
「跡部のことを言ってるんだ」
 跡部は思わず眉をしかめ、なんの罪もない花を睨んでしまう。隣から滝の控えめな笑い声が零れた。いったいなんなんだと問い詰めたくなる。けれどたくさんの花に囲まれている室内では気が引け、跡部はチラリと滝を睨み、あからさまなため息を吐くだけに留めた。滝はまだくすりくすりと笑っていた。
「ほら、やっぱり跡部は困っちゃうくらい優しい」
 滝の笑い方はけして揶揄するようなものではなく、だから跡部は特別滝の言葉に怒りはしなかった。ただ単に怒りというよりかは、呆れが大きいというのも理由ではあるが。それにしても、滝はいったい何をもってして跡部のことを「困っちゃうくらい優しい」などと評するのか。いくら相手の弱点を見抜くほどの眼力を持っていても、跡部にはわからない。わからないが、ただ一つ。
「俺様のことを優しいなんて、変な奴だな」
 呆れつつ、跡部は鼻で笑った。盛大に相手を馬鹿にする行為だった。けれど滝は気分を害した様子もなく、むしろ先程よりも上機嫌になり、跡部に笑みを見せながら「そりゃあ、俺は氷帝学園の生徒だからね」と、そのことが誇らしいというふうに言った。跡部にはまったく意味がわからなかった。いったいなにが関係あるのか。話にならない。まるでわかっていない王様を滝は微笑ましく見詰める。そして、このままずっと気付かずにいてくれたらいいの、とひっそり思った。



地球を眺める愛し方
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