黒田を視界に捉えた瞬間に息を吐くかのごとく舌打ちをしてしまい、荒北は一気に不機嫌になった。しかも荒北は良くも悪くも態度に出やすい性格なため、その機嫌の悪さは瞬く間に自販機周辺にいた人間の心に畏怖させた。もちろん原因である黒田も例外ではない。
「あ、らきた、さん」
 自販機のボタンを押したまま、ぎぎぎと不気味な音を出しながら今にも泣き出しそうな顔を黒田は荒北に向けた。そのあとに後輩として挨拶を口にするが、その声は可哀想なほどに震えていた。荒北はそんな黒田を睨み付け、ふたたび舌打ちをする。それもまた無意識だったが、黒田はそれを故意に行ったと解釈し、泣き出しそうな顔にほんのすこし不快さを足した。しかし荒北は謝らない。それどころではないからだ。
「どけよ黒田」
 ヤンキーのようなドスの利いた声に黒田はびくりと肩を跳ねさせる。そして少しでも荒北に対して不快を感じたことを含めて、すみません! と謝りながらもう自販機の取り出し口に放置していた烏龍茶のペットボトルを取り、そのまま走るように去っていった。その背中を見詰め、荒北はようやっと顰めていた顔を緩め、小銭を自販機に投入し、目当てのペプシコーラのボタンを押す。そして取り出し口に落ちてくるまでのほんの数秒の間に、やはり簡単には忘れられないんだなァと自傷気味に笑い、肘を擦った。



みじゅくじゅくじゅくばけのかわ
お題>女顔
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