達海はよく分からない奴だと言われているし、実際達海はよく分からない奴だった。かくいう俺もその一人なわけだが、それでも他の奴よりかはまだましなほうではないかと自負している。達海と似ていると言われたりするくらいだし。それにこれは俺が達海に対して負い目があるからとかではなく、ただ単純に思っていたことだが、達海にはそれなりに理解者が必要だと考えている。そんな人間いねぇだろ、と皆に言われてしまうからあまり言わないが、それでも達海の思想なんかをきっちり理解して達海のために動いてくれる人間というのは自ずと必要になるはずだ。というか、チームのために尽くしてくれる達海がすべてを預けたくなるような人間を用意する必要があるはずだ。それが俺ならば、負い目抜きに嬉しいのだが。
「別に俺さ、理解者なんていらないんだよね」
 屋上でアイスを食べたまま、平然と達海は言う。その視線の先にはグランドで練習する選手たちがいた。俺は達海の隣に座り、同じように選手たちを見た。しゃくしゃくとアイスをかじる音が青空の下には不似合いだった。
「笠さん、今俺が何考えてるか分かる?」
「サッカーのことだろ?」
 間髪入れずに答えれば、隣からニヒヒ、と不敵な笑い声が聞こえた。「ざーんねん、俺今サッカーのこと考えてなかったよ」クイズ番組にでも出てきそうな正解に、まさかと思わず達海を見た。達海は残り僅かのアイスを見せびらかすようにひらつかせて、意地の悪い笑みを口元に浮かべていた。
「はは、笠さん変な顔してるよ」
 俺を指差し、残りのアイスを一口で食べきる。俺はしばし呆然と達海を見詰め、そういえば俺は完全にこいつを理解したわけではないということを思い出した。しかし、それでも大まかには達海を理解していたつもりだっただけに、少しショックだった。
「……お前もサッカー以外のことを考えるんだな」
「そりゃあ人間ですからねぇ」
 なんてことないように呟かれた言葉は、うっかりするとこのチームが達海に対して忘れてしまっていることだった。そして今まさに、俺がそのことを忘れていたわけで。
「あのさ、笠さん。俺は笠さんが俺のことを一番良く分かってくれてるって分かってるし、それはスゴいことだしありがたいとは思うけどさ、でも俺、そんなのいらないんだよね」
 だいたい、そう簡単に理解されたら面白くないじゃん。と、達海はあっけからんと言った。それはまさに達海という男を表しているかのようで、同時にどうしてそんな簡単なことに気付けなかったのだろうと落ち込む。これでは達海を理解しているほう、と言うべきではない気がする。
「いやいや、だから笠さんは俺んこと一番分かってくれてるって。だけど笠さんは全部は分かんないし、俺も全部分かってほしいなんて思ったことない。てか、人間一人を完全に理解するとか、疲れるしめんどくさくない?」
「……お前らしい言葉だな、達海」
「ニヒヒ、だからさ、笠さん。んなに俺のことだけ考えなくていーんじゃない? ま、頑張って分かろうとしてくれんのはうれしーけど」
 無邪気な笑顔に釣られて笑う。達海の笑顔は好きだ。素直で真っ直ぐで、分かりやすくて。
「でも俺はお前のことが好きだからなぁ。んな簡単にいくかね?」
 ふざけるように言うと、達海は無邪気な笑顔から再び意地の悪い笑顔になり、「モテる男は辛いね」と小さく俺を突っつく。グランドからは松原の達海を呼ぶ声が聞こえてきた。



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