困ったように笑うのまではいいのだ。ただ、その言葉がいけない。
「達海にとって俺なんて大した存在じゃないよ」
 当然のように後藤はそんなことを言う。まるで台本でもあるかのようだった。達海は食堂に入るのをギリギリ止めて、さっと壁に隠れる。良かった、バレてない。そう胸を撫で下ろし、後藤と昼食を共にしている有里の「そうですかね?」という明らかに納得していない声に同調した。けれど後藤はそんな有里と達海の思いを一刀両断するように「うん、絶対ないね」と味噌汁を啜る。こんなにも後藤の鈍さを呪ったことはなかった。作った右拳が痛い。
「いや、でも達海さんと後藤さんって仲いいじゃないですか」
 達海が立ち聞きしていると知らないはずの有里の言葉が、自分を援護しているように聞こえる。チラリと盗み見ると有里は本当に不思議そうな顔をしていた。後藤は相変わらず困ったように笑っていた。
「まぁ、仲はいいだろうな。元チームメイトだし。でも達海と仲いい奴なんてたくさんいるし、それに仲がいいからといって、達海の中で大きな存在かって言われたら、違うよ」
「えー、後藤さんがそんなんじゃ、私なんてまったくじゃないですか!」
「うーん、有里ちゃんは大きいと思うけど」
 なんでだよ。達海は思わずそう突っ込みを入れそうになり、慌てて左手で口を覆った。ここで立ち聞きがバレてはいけないのだ。
「達海にとって、俺なんてちっぽけなもんだよ」
 謙虚どころの話ではない。というよりも、どうやら後藤は達海のことを誤解している。馬鹿じゃないか。そんな、ちっぽけな存在に、わざわざ手紙なんて送るわけがないと、なぜ気付かないのか。達海は漏れそうなため息を飲み込み、きっとまだ困ったように笑う後藤の顔を思い浮かべる。そしてあとで一回、とことんまで困らせてやろうと決意した。



鞭打ちもいいところ
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