存外お前は見ていないようで見ている、というわけではないのだな。と東堂さんは憐れむような眼差しを俺にだけ浴びせた。俺は東堂さんの言葉よりも、東堂さんがそんな目をすることに驚いていた。だって俺の知ってる東堂さんはいつでも自信満々で、目には光が宿っているのだ。こんな目、先輩たちは知ってるのかなぁ、なんて思っていたら東堂さんは目を細め、可哀想な奴だな、と俺を詰った。可哀想な奴。自分に向けられた言葉を口の中で繰り返す。可哀想な、俺。
「もっと周りを見てみればいい」
 導くような指先の先には体育座りで俯いている委員長がいた。なんで委員長がここに? という疑問は委員長の足下に落ちた涙で吹っ飛んだ。慌てて東堂さんを見れば、東堂さんは相変わらず憐れむような眼差しを俺に浴びせている。いや、もしかしたら軽蔑しているのかも、しれない。
「お前には彼女の涙の理由は生涯分からないだろうな」
 言われて、確かに俺は委員長がなんで泣いているのかをまったく知らずにいたことに気付いた。そもそも、俺は委員長の涙なんて見たことがなくて。委員長も泣くんだな。ただそう思っただけだった。東堂さんは無言で俺を可哀想だと詰ってきた。委員長は、一度たりとも俺に泣き顔を見せてはくれなかった。そんな、夢を見た。
「だから委員長、泣く時はちゃんと俺にその顔見せてね」
「は? 意味わかんないんだけど?」



鈍痛はじわりとやってくる
お題>羽虫
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