荒北さんのこと、本当に好きなんだね。まるで慈しむような眼差しで塔一郎そんなことを言ってきた。俺はいつものように塔一郎に荒北さんの嫌なところを愚痴っていたことも忘れ、思わず呆けてしまう。その間もマイペースな塔一郎は、ユキは荒北さんが大好きだねぇと繰り返した。というか、なんだその、あたたかい目は。お前は俺の親か。
「な、に言ってんだよ塔一郎! てかお前、人の話聞いてたか!?」
 ようやく正気になり、塔一郎を怒鳴り付ける。しかし塔一郎はきょとんと首を傾げ、だってユキは荒北さんが大好きだろ? と同じことを繰り返す。忘れてたけど、塔一郎もそこそこの不思議野郎だったことを思い出す。あ、いや、普段から不思議野郎か。
「だからな、塔一郎。俺はさっきまで荒北さんの愚痴ばっか言ってたんだぞ? だいたい俺の目標は東堂さんで、荒北さんはなんつぅか……そう、叩きのめしたい相手だ! な? こんなんのどこに俺が荒北さんをす、好きなんて要素があんだよ!」
「でも、ユキは荒北さんのことになると表情が輝いている」
 輝いている。塔一郎の言葉を頭ん中で反芻する。輝いている、俺が、荒北さんのことになると。輝いているというのは、塔一郎が新開さんの名前を呼ぶ時みたい、ってことなんだろうか。え? は? 俺、そんな、まさか。
「ユキは確かに荒北さんに対して嫌な感情も持ってるよ。それは僕には充分伝わってる。でも、それ以上にユキは荒北さんに対していい感情も持ってる。ていうかユキ気付いてないの? 荒北さんがレースで勝つと、誰よりも喜んでるよ?」
 今すぐにでも殺して欲しかった。塔一郎は優しい奴だから無理だけど。それでも今すぐにでも殺して欲しい。つか、死にそう。恥ずかしい。恥ずかしすぎる。よりにもよって、塔一郎に言われたってことが一番恥ずかしい。塔一郎はそんな俺の心情なんて気付かず、箱根学園の先輩方は全員格好いいね、と呟く。きっとそのあとには新開さんが一番格好いい、と続くんだろうなと確証しつつ、俺の中で一番格好いい人を思い浮かべた時、それが残念ながら荒北さんであることを知り、またさらに死にたくなった。



これは困った。
/リクエスト没文
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