身体のあちこちが赤く染まり、庭の隅っこで紅覇が蹲っていた。見れば庭にもところどころ赤い液体が飛び散っており、また紅覇の傍らに置かれた剣にも赤い液体が着いていた。冷静な頭できっとこの義弟はまた誰かを殺したか、あるいは切ったのだろうなと予想する。紅覇、と呼び掛けるとその小さな身体は名前を呼んだだけだというのに、まるで叱られたかのように震わせた。実際、叱られたと思っているのだろう。わからないが。
 別に怒っていない、という意思を伝えるために紅覇に近寄る。靴に赤い液体、つまりは血が着いたが、それよりも紅覇だ。うんと近付き、もう一度、こんどはありったけの優しさを込めて、紅覇、と呼ぶ。すると紅覇は震えを止め、しかし代わりにぐずぐずと泣き出してしまった。なにがなにやらである。
「どうしました、紅覇」
 紅覇は普段からよく泣く、なんてことはない。むしろ紅覇はよく笑う。よく笑って、私や兄上様にてとてと着いていくのだ。めいにぃ、と泣き声が聞こえる。
「明にぃは、僕のこと嫌い?」
 何を言い出すのかと思えば。呆れてしまい、即座に何も言えなかった。しかしすぐに答えなかったせいで、紅覇は余計に泣き出してしまった。
「や、やっぱり僕のこと、き、嫌いなんだ」
「違います、違いますよ紅覇! 嫌いなわけないでしょう?」
「……本当に?」
 ようやく紅覇が顔を上げる。涙と血でぐちゃぐちゃしていて、とても汚い。これは紅覇の美意識に反してしまうなと思い、袖でそれを拭いながら「当たり前でしょう」と答える。紅覇はその答えを聞くと、炎にぃも? と聞いてきたので当たり前でしょうとそれにも同じ答えを返した。そこで紅覇がようやく笑う。
「良かったぁ。さっきね、お前は嫌われているとか言う奴がいてね、そんなことないって切ったんだけど、でもなんか自信無くなっちゃったから」
「大丈夫ですよ紅覇。私も兄上様も、紅覇を嫌いになどなりませんよ」
「うん。本当に良かった。僕ね、炎にぃと明にぃに嫌われるのがね、この世で一番怖いから」
 つい先程、人を切ったとは思えないことをさらりと言い、紅覇は無邪気な笑顔を見せた。良かった。やはり紅覇はこうでなくては。私は紅覇を抱き締めて頭を撫でつつ、紅覇に切られた輩がまだ生きていたらすぐに見付けて殺すように命じようと思った。



目に入れても痛くない
/弱点:兄 から
×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -