靖友は寿一のことが大好きだ。大好きというよりかは崇拝していると言ったほうが正しい。詳しくは知らないが、寿一が荒れていた靖友を改心させたということがきっと大きいのだろう。だからこそ靖友はあれだけ口が悪く、態度も悪いくせに寿一の言うことは聞くし、寿一の判断が絶対だと犬のように動いている。そして不毛なことに俺はそんな靖友がこの世で一番好きで仕方がなかった。
「いやでもだからって靖友が俺を好きでいてくれたらすごく嬉しいんだけどな」
ぽろり。一人きりの部屋にわりと大きめな独り言が落ちる。かなり恥ずかしい。誰もいないからそんなに恥ずかしがらなくてもいいのかもしれないが、それでも恥ずかしかった。たぶんこの羞恥には、独り言とは言え靖友が好きだとはっきり言ったことも含まれている。うっすら熱い頬のまま手探りで鞄からパワーバーを取り出す。独り言を言わないようにだ。それからまた俺は靖友のことを考えた。
靖友は優しい。驚くほどに優しい。口と態度が悪く、すぐに手が出るような性格なのに、靖友は自転車部の人間ばかりかそれ以外の人間にも優しい。だからこそ靖友は後輩とかから怖がられているのに決して嫌われてはいない。俺みたいな八方美人とは違う。不器用な彼がとても愛しい。けれどその優しさだって結局は寿一が一番なのだ。でもやっぱり俺はそんな靖友がこの世で一番好きで。
思わず笑ってしまう。なんなのだろうか、俺は。というかこれが好きというものなのだろうか。なんでもかんでも靖友のことが好きだと確認するように思い浮かべて。笑ってしまうくらい馬鹿馬鹿しい。馬鹿馬鹿しくて、恥ずかしい。ああもういっそ、これを知った靖友が俺のことを盛大に馬鹿にしてくれたらまだマシなのに。
馬鹿馬鹿しい話
/まんま